葬儀場に着くと、母たちが出迎えてくれた。「ばあちゃん死んじゃったよ」と言う母。眠るようにしている静かな祖母に手を合わせた。額を撫でると岩手の外の空気のようにとても冷んやりしていた。9月に会って手を握った時とは違う温度。お別れの日がついに来てしまったのだ。
「葬儀屋さんがこの後のことについて色々教えてくれるんだけど、全然頭に入らなくってね」という母の心細そうな声。私は、祖母の顔を見ながら自分と対話した。
1年前だったら海外からの渡航には2週間の隔離があって、こんなふうにお別れができなかったはずだ。半年前だって、PCR検査の結果を持っていなければ飛行機に飛び乗ることもできなかった。2ヵ月前に最後に子供達に会わせることもできた。こうやってお別れができるようになるまで、祖母は頑張ってくれたんだ。ばあちゃん、ありがとう。そんな思いで胸がいっぱいになった。

小さな家族葬で、親戚や私の兄弟ともいろんな話をする時間ができた。話好きなばあちゃんと会話をしているような不思議な気持ちになった。旅の支度で足袋を履かせる手伝いをしたり、ヨイショと声を合わせて納棺する作業にも携わることができた。
お別れの準備をしながら私も心を整えることができて、ああ、来てよかった、と思った。