「事件のその後」三島バイク交通死亡事故 加害者のウソを警察が鵜呑みに…遺族が慟哭「夫を亡くしても、私は被害者になれなかった」
ノンフィクションライター・高木瑞穂氏とフリー映像作家・我妻憲一郎氏主幹のYouTubeチャンネル『日影のこえ』は、大手マスメディアが報じることがない「重大事件のその後」を追い続け、事件の関係者たちの「名もなき声」を記録に残している。彼らが上梓した『日影のこえ メディアが伝えない重大事件のもう一つの真実』(鉄人社)のなかから、2019年1月に発生した「三島バイク交通死亡事故」を紹介する。なお、文中で使用される「僕」は高木氏と『日影のこえ』取材班の総称である。
妻が書き留めた1冊のノート
帰宅ラッシュを控え、静岡県三島市萩の市道交差点は、いつものように交通量が増していた。
乗用車が赤信号に列を作る。その横をすり抜け先頭に立とうとするバイクの集団。みな家路を急いでいた。悲惨な事故が発生したのは、2019年1月22日18時過ぎのこと。
会社員の仲澤勝美(当時50歳)が青信号を確認してから原付スクーターで直進したところ、交差道路から赤信号を見落として交差点に進入してきた乗用車に衝突され、胸を強く打つなどして即死したのである。

ところが、地元紙は当時、警察発表を鵜呑みにしてこう伝える。
〈三島市萩の市道交差点で直進中の会社員W・S子さん(46)の乗用車と、右折しようとした仲澤勝美さん(50)のミニバイクが衝突した。仲澤さんは胸を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。Wさんに怪我はなかった〉(2019年1月23日 静岡新聞 *イニシャルは編集部)
赤信号を見落として直進してきたのはWだったのにもかかわらず、彼女の「急に右折してきた」という証言を盲信し、ついには被害者である勝美を加害者であるかのごとく報道したのである。死人に口無しをいいことに、真実はねじ曲げられようとしていた。
取材に際し、まず僕に勝美の妻・知枝は1冊のノートを見せてくれた。事件の詳細や警察の対応、裁判の粗筋などが書き留められているなか〈被害者になれない被害者〉という一文でページを捲る手を止め、憤懣やるかたない表情で訴えた。
「夫を事故で亡くしても、私は被害者にすらなれなかったんです」