警察の説明は論理が破綻していた
飛ばす車が多い国道のこと、危険を知り尽くしていた勝美はいつも、平行して続く細い脇道をゆっくり飛ばさず走っていた。国道を通るのは、脇道から横切る一瞬だけだ。納得のいかない知枝はタブレットで地図を開き、警察官に帰宅ルートは脇道のほうだと説明、捜査をやり直すよう求めた。が、警察官はにべもなく言う。
「それも右折って言いますよ」
知枝が「脇道から国道に抜けていくのは直進なんじゃないんですか?」と何度も説明しても、
聞く耳すら持たなかった。杏梨が続ける。
「なんかもう、父が右折したことで片付けたい。そんな思惑が警察から強く伝わってきましたね、理由はわかりませんが」
どう考えても直進である。警察の論理が破綻していることは明白だ。ところが、それを知ってか知らずか、警察は勝美が急な右折をしたからだと押し通す。埒が明かないと判断した知枝が、「一つだけ教えてください。なぜ主人が急な右折をしたと思っているんですか?」と声を荒げて聞くと、警察官はあろうことかこう吐き捨てた。
「事故の相手が言っていますから、急に飛び出してきたって」
事故から2日後。勝美が愛用していたジッポーが現場付近で見つかったとの三島署からの連絡を機に、杏梨と勇梨は警察に向かい、再捜査を促す質問を投げかけた。
「事故現場周辺の防犯カメラは調べるんですか?」
「いまは信号が赤か青かを確認しているだけだから、調べてないよ」
怠慢な回答に添えられたのは、いずれにせよ勝美の過失とする警察の見解だった。
「脇道から来たとしたら、お父さんは信号無視になる。大通りから来ても、原付は二段階右折しなきゃいけないから。今ここでは問わないけど」
話にならない。父が急な右折や信号無視をするはずがはない。絶対に事故相手は嘘をついている。そして警察は自分たちの都合を優先している──。
〈文中敬称略〉
事故の目撃者探しを開始した被害者家族に、SNSを通じて心ないメッセージが次々と届く。後編記事『「事件のその後」三島バイク交通死亡事故 裁判でウソがバレた加害者に執行猶予付き判決…遺族が悲痛な告白「被害者に救いはない」』に続く。