加害者女性との遭遇
事故当日の目撃者ではないが、彼女が語る勝美は、家族が知る正義感の強い父そのものだった。そして、家族は確信する。勝美は信号無視も急な右折もしていない。真相を究明すべきだ。とはいえ、できることといえば事故現場に立ち目撃情報を募るぐらいしかない。
が、それは家族が目撃者を探していると知った勝美の知人たちにとどまらず、子供の同級生の親や近隣住民、職場の同僚までをも巻き込んだ大捜査に発展していく。みんなの思いは一緒だった。6万5000部のチラシを配り、勝美が危険な運転をするはずはないと訴えた。


そんなある日、家族は意外な人物に遭遇する。事故相手の女性、Wである。事故現場に手向けた花の入れ替えをしていると、彼女と夫が現場をスマホで撮影していたのだ。お悔やみの言葉をかけられても素直に聞けるのか。本当に父が急に飛び出してきたのか。一気に緊張が走る。
自らに、冷静に冷静にと呼びかけ、間合いを詰めた。杏梨は言う。
「目を合わせることすらしてこなかったんです。私たちの存在に気づいているはずなのに」
Wと夫が取った行動は、完全に無視だった。おそらく3メートルも離れていない真横から歩道を歩き立ち去ったのである。杏梨は涙ながらに語る。
「事故後、母はもちろん、妹も弟も心療内科にかかるまで追い詰められました。もう限界だったのでしょう。母に至ってはいまも診療内科に通っています」