平然と無実を主張する加害者
しかし、家族の行動は無駄ではなかった。ほどなく警察に、捜査員が探そうとすらしていなかった目撃情報が続々と集まり、その全てが「事故を起こした相手が”信号無視”をしていた」というものだったのだ。そして事件から9日後、警察はようやくWを過失運転致死の容疑で逮捕する。
杏梨が「父はやっぱりいつもどおり脇道を通って帰ってきたということですか?」と聞いたところ、警察は「おそらくそういうことになります」とバツが悪そうに答えたという。
「とりあえず父が悪くなかったことは証明できた。でも、嬉しいとかじゃない。やっぱり悪くなかったのにどうして死ななきゃいけなかったんだろうって気持ちが強かったです」
勝美が急な右折などしていないことも明らかになった。脇道を通る姿を記録した防犯カメラが見つかったのである。
「警察は、当初の広報を間違いだと暗に認めたのです。そして、争点はどちらの信号が青だったかに絞られました」(杏梨)
被害者から一転、加害者となったWは逮捕後も一貫して無罪を主張し続けたばかりか、彼女の家族たちはSNSを舞台に場外戦とも思える投稿を繰り返す。
〈元気元気。元気な私はうんこがくさい〉(Wの夫)
〈旅行に行きたい〉(Wの娘)
遺族の感情を逆撫でする言葉に、杏梨たちの気持ちは晴れるどころかますます苦しみが大きくなった。彼らは、家族のひとりが人命を奪ってしまった事実をどう考えているのか。いや、冷静に考えれば、加害者家族がなめた態度に出たのは、弁護士による入れ知恵があったに違いない。