ここ数年、アメリカやフランスの女性監督による中絶を描いた作品が国際的な映画賞を受賞し脚光を浴びている。12月2日(金)に公開されるフランス映画『あのこと』は、『燃ゆる女の肖像』(2020)、『17歳の瞳に映る世界』(2020)、『セイント・フランシス』(2021)で映し出されている“女性の自己決定権”をさらに深掘りしたものだ。

2021年度ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したばかりか、英国アカデミー賞と仏版アカデミー賞のセザール賞の監督賞にもノミネートされた本作。監督第2作目にして世界中から注目を集めたオードレイ・ディヴァンが監督を務めている。ディヴァン監督は自身が中絶したときに、今年ノーベル文学賞を受賞した作家アニー・エルノーの小説『事件』(邦訳はハヤカワ文庫の『嫉妬/事件』に所収)を読み、映画化を切望したという。

昨今なぜ、“揺るがぬ中絶の決意をもった女性“を描いた映画が制作されているのか。また、1960年代の中絶物語をなぜいま監督は映画化したかったのか――。オードレイ・ディヴァン監督へのインタビューとともに解説したい。

オードレイ・ディヴァン監督

80年代前半まで日本と変わらず「男尊女卑社会」だったフランス

原作であるアニー・エルノーの『事件』は、彼女の中絶体験を描いたものだ。現在82歳のエルノーが中絶したのは1960年代。当時、人工妊娠中絶はフランスで禁止され、中絶を受けた女性とそれを施した医師や助産婦、さらには助言者や斡旋者まで懲役と罰金が課されていた。

いまでこそフランスはフェミニズムが進み、性と生殖に関する健康は女性の“人権”とされ、避妊、出産や中絶も“医療”と捉えられている。出産と中絶費用も100%保険でカバーされ、未成年の中絶に親の同意は不要。さらにはコロナ禍の2021年1月から経口避妊薬、避妊リング、避妊パッチ、避妊注射、避妊インプラントなどの避妊法が、25歳未満の女性に無料で提供されるようになった(※1)

 

しかし、そんなフランスで中絶が合法化されたのは1975年。1965年まで女性は自分だけで銀行口座も持てず、大学へ行く代わりに花嫁学校が多数あり、“良き妻”になることが女性に求められていた。1968年の五月革命と女性解放運動が起こって以来、フランスのフェミニズムは前進を続けて来たが、1980年前半までは女性議員比率も約2%と日本と変わらないほど男性優位社会であった。ちなみに現在、日本の女性議員比率は約10%でフランスは約40%だ(※2)

原作者エルノーを模した映画の主人公アンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)が女子なのに大学生だったのは、1960年代には非常に稀だったのだ。とりわけ、田舎で小さなカフェを営む労働者階級出身の両親に育てられたアンヌは、村きっての秀才でみんなの期待を一身に受けており、夢に燃えていた。

『あのこと』より