女性の場合は男性の不倫にうるさい人が多いのに、弘さんの妻は、20年以上も、ひとことも不満を言わずに過ごしてきたのだ。そのあいだ、有利に離婚するためにしっかりと証拠固めをして、なんの話し合いもなく離れていった。娘にお金がかからなくなったタイミングで、だ。
もしかしたら俺は、ただ、家族のATMだったのではないか…? 最近はそう思えてたまらないそうだ。
「不倫しといて言うのもなんですけど、俺の30年ってなんだったんだろうなと思うわけですよ。思い返せば俺、妻から“愛してる”って言われたことないんですわ。ありがとう、とか、やさしいね、とかは言われたけれど、愛してるとは言われていない。
実は妻には、付き合っている人がいたのかもしれないね。俺みたいな不倫じゃなくて、本気の相手がね、いたのかもしれない。もうそんなことも、どうでもいいんですけどね。
妻がどんな気持ちでいたにせよ、俺にできるのは、今目の前にある現実に対処することだけですから。離婚のきっかけは不倫かもしれないけれど、してなかったとしても俺、捨てられてたんじゃないかなあ……。なんかそんな気がして仕方ないんです」
50代からの再出発。それも、自分で決めた再出発ではないから、なかなか精神的にはきついものがある。でも、考えても仕方のないことをくどくど考えるよりは、前に進みたいと弘さんは言う。
人生後半戦。無駄に時間を費やしたくないのだそう。“元気”とは言いがたい声色だが、それでも、前を向いていこうという弘さんに、人生をしっかり生きていこうという決意のようなものが感じられた。
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