2022.12.05

安倍追悼演説で野田がダメダメだった理由を、改めて明かそう《田中康夫・浅田彰》

「憂国呆談」第5回 Part1
田中康夫×浅田 彰 プロフィール

やりたい放題のグローバル税制

田中 石破だったり村上誠一郎のような人物こそ、自民党には大切だよ。その意味では今回、法務大臣に就任した石破グループの一員だった齋藤健も、「ニッポン凄いゾ論」ではない歴史観を抱いていて、僕は期待しているんだけどね。

浅田 とにかく、野党の話に戻って言えば、山口も含め「第三の道」を推進した連中は「現実主義的な責任ある野党」を目指したはずが、「現状を追認し財務省の言うことを聞く野党」をつくっちゃった。

田中 いまだに「財政規律派」vs.「積極財政派」、「緊縮財政派」vs.「放漫財政派」という不毛な二項対立論争が続いているけど、大前提とすべきは「フェア、オープン、シンプル、ロジカル」な税制であるかどうか。なのに一向に改まらない。

僕が衆議院議員だった2011年2月8日に民主党政権下の予算委員会で「法人税を1円も払っていない企業はどのくらいの割合に上るか、ご存知でしょうか」と首相の菅直人に質問すると彼に代わって、財務大臣だった野田が「全体の七割でございます」と白状している(動画議事録)。

野田佳彦内閣となって2ヵ月後の11月1日に本会議の代表質問で僕は「その状況は今も変わりませんね。資本金が1億円を超えるいわゆる大手企業でも法人税を納めていない企業が6割近く。連結法人の超大企業に至っては、なんと66%に上ります」と改めて確認したんだ動画議事録)。

ところが、その遣り取りはNHKの国会生中継では流れたものの、民放を含めた夕方以降のTVニュースや翌朝の新聞では、スポーツ紙や「しんぶん赤旗」を含めて、まったく報じないんだな。都合の悪い事実を伝えない中国やロシア、イランの報道を嗤えない。

累積債務超過に陥った会社を買収して連結決算に組み入れ、負債を「戦略的に」一括処理して赤字決算に転落すると、翌年以降に黒字転換しても最大10年間は国税の法人税も地方税の法人事業税もゼロ円で、払うのは企業の住民税に当たる年間わずか80万円の法人都道府県民税のみ。

だけど、赤字企業でも事業収入自体は存在する。ましてや3割の企業が過重な負担にあえぎ、残り7割は(翌年から)黒字で利益を得ようとも左うちわの理不尽な状況を改善する上でも、事業規模や活動量を基準に新しい概念の「外形標準課税」ですべての企業が広く薄く納税する完璧な新税制を確立すれば、極端な話、法人税率を現行の3分の1に引き下げても、全体では逆に1割の税収増となる。この理論を実践的に確立したならノーベル経済学賞だよ。

Photo by Shinya Nishizaki

浅田 世界的にみても、新自由主義による法人税引き下げ競争のあげく、アップルみたいなグローバル企業が主にアイルランドみたいな法人税率の低い国で納税して、主な市場である国で「節税」してるのは、とんでもない話だからね。

それに対し、ジョー・バイデン米大統領らが言い出して、世界共通の最低法人税率を作ろうって動きが始まってる。遅きに失したし、前途遼遠とはいえ、グローバル資本主義が成立した以上、グローバルな徴税は無理としても、各国の徴税当局が協力して、グローバル企業にもまともに税金を払わせるべきだし、もちろんタックス・ヘイヴン(租税回避地)を駆使した富裕層の「節税」も根絶する、それが当然なんだよ。

インターネットによるディジタル化・グローバル化は本来そっちに向かうべきだったんで、グローバル企業と富裕層だけがやりたい放題っていう現状は明らかにおかしい。単純に、営業して儲かってる国で営業税や所得税を払う。当たり前の話でしょう。

 

田中 もう1点、環境に配慮した事業所を全国各地の自治体が誘致しても、法人税と法人事業税は本社登記地の東京に支払われ、誘致先には固定資産税プラスアルファしか落ちない理不尽さを変える上でも、事業規模や活動量を基準に広く薄く課税する新しい課税制度へと刷新してこそ、ホンマもんの「地域主権」に繋がるんだけどね(理に叶った税制)。

いずれにせよ、「財政規律派」vs.「積極財政派」、「緊縮財政派」vs.「放漫財政派」という不毛な二項対立でなく、人間の体温が感じられる「幸せの利回り=イールド」を高める方策が求められる訳だよ。

手前味噌ながら、実質公債費比率が47都道府県でワースト1位だった長野県の借金を全国で唯一、在任6年連続で計923億円減少させ、基礎的財政収支=プライマリーバランスを7年度連続で黒字化する一方、最終年度には実質経済成長率5%を達成したのも、地域密着型の雇用を生む公共事業への転換と、人が人のお世話をして初めて成り立つ福祉・教育・医療への傾注投資。

そして中央に利益が還流する不透明な談合や中抜きビジネスを改める入札改革。弱者切り捨てとは真逆の、効率的でありながら富国強兵でなく経世済民(けいせいさいみん)な社会を目指したから。「新しいケインズ・正しいハイエク」と呼んでいるんだけどね(一橋大学開放講座衆議院予算委員会中央公聴会)。

とまれ、税金を投じた「かたち」が目に見えるから甲論乙駁(こうろんおつばく)となる土木建設系の公共事業と違って、IT系の公共事業は「見えない」から伏魔殿だ。

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