ここ数年、ファッション業界では「サステナブルであること」を方針として掲げるブランドが増え、「エシカルファッション」というキーワードは欠かせないものになっている。それは単に時代の潮流に合わせたブランディング戦略、というだけではない。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アパレル・繊維産業は「世界で第2位の汚染産業」とみなされるほど、地球環境に与える負荷は大きい。石油産業に次いで、二番目に多いCO2排出量ともいわれており、衣服の生産工程で大量の水が使われていること、また、膨大な数の売れ残りの服を廃棄することも環境汚染の要因とされている。
そんな中で、「人にも地球にも迷惑をかけずに、ファッションも楽しめる社会」の実現に向け、人生をかけて社会を動かそうとしている一人の女性がいる。「Enter the E」代表の植月友美さんだ。「Enter the E」は、品質のよさと経済性を兼ね備えた洋服を取り扱うブランドをキュレートするオンラインセレクトショップ。 環境汚染やエネルギー問題、 さらに作り手の雇用にも配慮されたアイテムを取り揃えることで、サステナブルな衣生活を提案しており、2019年にジャパンソーシャルビジネスサミット 審査員特別賞を受賞。さらに2022年、ソーシャルプロダクツ・アワードの「ソーシャルプロダクツ賞」を受賞している。
カナダにあるGeorge Brown Collegeでファッションマネージメントを学び、大手小売企業で会社員を経験したのちに、自身で「Enter the E」を設立、と順風満帆に思える植月さんの経歴だが、ここにたどり着くまでの道のりは、波乱曲折に満ちたものだった。「Enter the E」を立ち上げるまでの流れは、植月さん自身が心を燃やし始めるまでのストーリーでもある。

違和感を抱いた、「ゴミの島」での社会科見学
そもそも植月さんがエコロジーという概念を最初に意識するようになったのは、小学一年生の時に社会科見学で訪れた、「夢の島」でのできごとだったと明かす。
夢の島とは、東京・江東区にある人工島で、かつては東京都内のゴミの最終処分場とされた場所。通称「ゴミの島」とも呼ばれていて、植月さんが見学した当時は、すでに公園として整備されていた。
「焼却施設とその周辺の公園を見学したんですけど、その時受けた説明がすごく衝撃的だったんです。うろ覚えではあるのですが、この島の第一セクター、第二セクターはすでにゴミで埋まっていて、さらに敷地を広げなければならないと。そんな危機感のある状況でありながらも、肝心のゴミの山は埋め立てられ、整備されているから見えない。そのちぐはぐな感覚に違和感を抱きました。ゴミがその土地を侵食しているのにそのもの自体が見えないという違和感。今振り返ると、それが現在のマインド形成の根幹になったと思います」
祖父母が洋品店を営んでいたこともあり、ファッションが身近だった植月さんは、高校を卒業すると、当時憧れていたバイヤーを目指してセレクトショップに就職した。しかしそこでバイイングを任されるのは大卒以上か、バイイングの専門知識をすでに持っている者のみだった。「キャリア形成を間違えた」とすぐに思った植月さんは古着店のバイヤーに転身する。

「国内のバイヤーを担当したのですが、バイヤーとは名ばかりで、実際は家庭から回収された衣類ゴミが二次流通向けに集められた施設で、膨大な服の山から毎日6トンくらいの服をピックしていました。勤務先がそこの施設と契約していたんです。2000年初頭は、まだファストファッションが主流ではなかったこともあり、わりと質のいいものが多くて、ディオールなどのハイファッションの服も見つかりましたし、探す作業自体は楽しかったです。
それに比べると、最近の古着は質が悪くなったと聞きます。ファストファッションが台頭してからは、メルカリなどで売れなかったものがそういった市場に出回ったりするので、なかなかいいものが集まらない、なんて話も耳にしますね」