「悪い円安」のあとに来るもの
さて、「悪い円安」が終わりさえすれば、そのあとに「いい円高」が訪れるという漠然とした期待感が高まるのは当然のことだが、ことはそう簡単ではなさそうだ。
かつて世界有数の貿易黒字国であった日本では「円安・ドル高」は「良い円安」だったが、円安と資源高により輸入額が大幅に増え貿易赤字国に転じている今日では、「円安・ドル高」は物価上昇を引き起こす「悪い円安」になってしまっている。
もし円安に歯止めがかかり為替市場が円高方向に転じれば、輸入価格の下落を通して物価上昇圧力が弱まるのは確かことである。しかし、物価上昇による国民生活への悪影響が軽減される可能性があるのと同時に、円高が将来の国民生活に悪影響を及ぼすリスクを秘めていることを忘れてはならない。
日銀は黒田総裁が就任した2013年4月から「2%の物価安定目標」の早期達成を掲げて異次元の金融緩和を続けて来た。しかし、昨年4月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)の「2020年~2023年度の政策委員の大勢見通し」の中で2023年度の消費者物価指数(除く生鮮食品;以下「コアCPI」)上昇率の見通しを1.0%上昇として、同年4月の黒田総裁の任期満了までに2%物価目標は達成できない見込みであることを明らかにした。
しかし、その後の資源高や円安によってコアCPIは急上昇し、10月には1982年2月以来約40年ぶりの水準である前年比3.6%上昇となった。コアCPIが日銀の目標である2%を上回るのは7カ月連続である。

なぜ金融緩和を続けるのか?
各国の中央銀行がインフレ抑制を目的に利上げに動き、かつコアCPIが7カ月連続で日銀の「2%の物価安定目標」を上回るなかで、なぜ日銀は粘り強い金融緩和を続ける姿勢を堅持しているのだろうか。
それは、利上げに動くことによって政府・日銀にとって「都合の悪い円高」が起きるリスクがあるからである。