虐待や暴行は、保育現場で決して起こってはならないことだ。なぜなら、保育は児童福祉法に基づいて福祉行政の一貫として行われている。
厚生労働省の「保育所保育指針」には保育所の役割が記されており、「子どもの状況や発達過程を踏まえて、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うこと」としている。保育士には、子どもを虐待から守り、「子どもの最善の利益を守る」という役割がある。
福岡市や静岡県牧之原市の通園バス園児死亡事件は、出欠確認が徹底されないことによってバスに置き去りになって起こった。園児の出欠確認は基本中の基本。それができないほど、現場の質が劣化しているということだ。
多くの保育園が掲げるであろう「一人ひとりに寄り添う」という保育理念があれば、欠席する園児がいた時に保育士は「あれ?どうしたんだろう」と心配するはず。しかし今や、業務過多などもあって「今日は休みが多くて楽になる。ラッキー」と言う保育士も存在する。
人員不足で「保育の質」も低下
筆者は15年ほど前から、労働問題として保育士の働き方を追い始め、保育の質の劣化についても『ルポ保育崩壊』『ルポ保育格差』などにまとめてきた。多くの保育士が懸命に園児を想って保育し、「やりがい搾取」される実態があるなかで、保育は変質していった。
きっかけとなったのは待機児童対策が国の目玉政策となった2013年以降、急ピッチな保育園の“建設ラッシュ”が始まったことだ。空前の保育士不足に陥ったことで、保育の質が著しく低下していった。