2022.12.09

小児外科の名医が語る「忘れられない患者とその家族」

涙なしでは読めない小児医の覚悟・後編
週刊現代 プロフィール

夜中にかかってきた電話

――番組に取り上げられると、大きな反響があるのではないですか。

「それに関しては、忘れられない思い出があります。

僕は、正直、助けられた患者さんのことはすぐに忘れてしまうんです。でも、助けられなかった患者さんのことは今でも時々思い出します。

テレビ出演のお話を頂く度に『神の手を持つ外科医などいない』、『私の上手くいかなかった手術の話もしてもらいたい』と言っていますが、なかなか採用されません。番組の構成上厳しいのでしょう。

僕が手術できなかった子は、個人情報もあるから詳しくは話せませんけれど、内臓の病気の子で、ある内臓を全摘出しないと助けられないお子さんでした。

だけど、まだ体も小さくて、その手術は負担が大きい。ほかにいい方法がないのか、欧米の教授にも話を聞いていたんです。でも、やっぱりみんな、『その臓器を取るしかない』って言うんですよね。

もともと炎症を繰り返していた患者さんでした。他に何か良い方法はないかと考えている間に再び重症の炎症をその臓器に起こしてしまい、助けてあげることができませんでした。

 

かつて助けられなかった患者さんの親御さんは、僕がテレビに出るのを見て、どう思うんだろう。取材を受けているときも、それをずっと考えていました。『こんな症例を治した、あんな症例も治した』っていう話が続くわけですからね。

テレビ番組放送の当日、放送が終わって1時間経ったくらいかな。病院の当直から夜中の12時近くに電話がかかってきたんです。『患者さんのおばあちゃんから連絡が入っていますがどうしますか?』って。

電話に出たら、おばあちゃんが仰ったんです。『先生、夜遅くに申し訳ないです。でも、どうしてもうちの息子(亡くなった患者さんのお父さん)が、先生と話したいと言うんです』。『もちろん話しますよ』とお伝えました。

いまでもあの時の言葉は覚えています」

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