北朝鮮からの労働者も
末端の労働者の賃金が月給で4万円だとすれば、借金を返済するために10ヵ月以上の労働をしなければならない計算になる。一刻も早く完済し、本国へ送金するために無理な労働をする者が多いのは当然だが、今度は彼らの前に管理者が立ちはだかるという。前出の細井氏が話す。
「例えばインド人が働く建設現場には、インド人のマネージャーが多い。すると、カースト制の名残りもあって『お前はこのくらいでいいだろう』とピンハネする者も出てくる。労働者は疲弊し、死者が増えることも想像に難くありません」
これは他の国籍の労働者にとっても深刻な問題だ。
「建設現場で働いていた北朝鮮からの労働者は、3年間働いて得た賃金のうち10%ほどしか受け取っていませんでした。残りは全て朝鮮労働党39号室(北朝鮮の外貨獲得のための金正恩総書記直属機関)が吸い取っていたのです。
これはカタールの問題ではないと思うかもしれませんが、カファラ制度を廃止し、外国人の労働環境を改善すると宣言したにもかかわらず、悲惨な現状を変えることができない政府の罪は重いと言わざるを得ません」(前出・パティソン氏)

一連の問題については、ヨーロッパ諸国を中心に多くの批判が寄せられている。日本が勝利し、1次リーグで敗退したドイツもそのうちの一国だ。
「'22年9月に今大会についてドイツで取材をしたのですが、現地のメディア関係者からはプレーや選手のことについてあまり聞かれませんでした。それよりも、『カタールの人権問題について日本はどう考えているのか』と問われることが多かった。なにも答えられずに恥ずかしい思いをしました」(スポーツライターの栗原正夫氏)
世界中が熱狂の渦に包まれる一大イベントが、結果として尊い命を奪うこともある。日本代表の活躍は誇らしいが、その裏にある事実にも目を向けておきたい。
「週刊現代」2022年12月10・17日号より