20世紀最重要の哲学者の一人と言われるヴィトゲンシュタイン。
彼がその思索のなかで作り上げたきわめて重要な概念が「言語ゲーム」だ。
「言語ゲーム」と聞くと何やら難しそうな雰囲気が漂うが、おじけづくことなかれ。
社会学者の橋爪大三郎が、言語ゲームを理解するための「急所」を伝授する(この記事は、橋爪大三郎『言語ゲームの練習問題』から抜粋・編集したものです)。
イスは「椅子」を指す
イスという言葉が「椅子」を指すことを、どうやって教えるか、という場面を考えてみる。
ふたりがいる。ひとりは、イスという言葉の意味をわかっている。もうひとりは、イスという言葉の意味がわからない(わかっているのが地球人で、わかっていないのが宇宙人、かもしれない)。
とにかく、教えるひと(教師)/教わるひと(生徒)、の組み合わせである。教師は、イスという言葉を教えるのに、椅子の実物を持ってくる。これも椅子、これも椅子。こんな感じだ。

実物を持ち出すのは、直示的定義(『言語ゲームの練習問題』の第5章で紹介)と似ている。ただ、直示的定義は、椅子が1個だけだったこと。今回、教師は、椅子をいくつももってくる。
最初の椅子をもってくる。これがイスです。生徒は、?と思う。2番目の椅子をもってくる。これもイスです。生徒は、??と思う。3番目の椅子をもってくる。これもイスです。生徒は、???と思う。生徒は、最初の椅子と2番目の椅子を見比べる。2番目の椅子と3番目の椅子を見比べる......。見比べているうちに、なんとなーくわかってくる。なるほど、こういうことかも......。うん、そうそう......。そうか、やっぱり。そして思う、間違いない。「わかった!」