2023.01.22

死体に「麻酔」をかけて、「動いている心臓」を取り出した…医師が明かす「死」のひとつのありかた

だれしも死ぬときはあまり苦しまず、人生に満足を感じながら、安らかな心持ちで最期を迎えたいと思っているのではないでしょうか。

私は医師として、多くの患者さんの最期に接する中で、人工呼吸器や透析器で無理やり生かされ、チューブだらけになって、あちこちから出血しながら、悲惨な最期を迎えた人を、少なからず見ました。

望ましい最期を迎える人と、好ましくない亡くなり方をする人のちがいは、どこにあるのでしょう。

*本記事は、久坂部羊『人はどう死ぬのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
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脳死のダブルスタンダード

脳死になっても、人工呼吸をしていると、しばらく心臓は動き続けます。だから、心臓を含む臓器移植が可能となるのです。

そもそも、脳死という無理くりの概念が捻り出されたのは、臓器移植が可能になったからです。心臓移植では、生きている心臓を移植しなければなりません。死体から取った心臓を移植しても動かないからです。しかし、生きている心臓を取り出せば、ドナーは死ぬので殺人になる。ですから、心臓移植では、心臓は生きているが、ドナーは死んでいるという、自然ではあり得ない状況が必要だったのです。

そこであみ出されたのが脳死です。脳死は人の死と定義され、死んでいるのだから心臓を取り出しても殺人にはならないというのが、法律上の解釈です。

しかし、脳死の患者さんは、人工呼吸器をつけているとはいえ、胸は動いているし、身体も温かい。当然、心臓も動いている。あまつさえ、心臓を摘出するときには全身麻酔をかけるのです。死体に麻酔? ほんとうに死んでいるのかという疑問が湧くのは当然でしょう。