20世紀最重要の哲学者の一人と言われるヴィトゲンシュタイン。
彼がその思索のなかで作り上げたきわめて重要な概念が「言語ゲーム」だ。
「言語ゲーム」と聞いて「純粋に哲学的な話だろう」と思い食指が伸びない方もいるかもしれない。
しかしこの考え方を学ぶことは、じつは哲学以外の分野での思索を深めることにも役に立つのである。
社会学者の橋爪大三郎が解説する(この記事は、橋爪大三郎『言語ゲームの練習問題』から抜粋・編集したものです)
言語ゲームの応用
言語ゲームの考え方は、知っているだけで、ものの考え方が深くなる。たとえば、国際関係。言語ゲームの重要な主張のひとつは、人びとは自分が従う言語ゲームのルール(規則)を、必ずしも記述できない、ということだ。書き出された法律や箇条にとらわれると、ものごとのその先を考えることができない。
日本人が国際関係を考える場合の材料は、日本国憲法(9条)、国連憲章、日米安保条約であろう。軍隊を持たず、各国の主権を尊重し、平和的手段で問題を解決しましょう。これら材料をどう組み合わせても、こんなアイデアしか出てこない。
国際関係は、各国が主体となって行動する社会である。その秩序は、国際法だ。各国のふるまいが一致する。これが国際法の本質であって、文字に書かれない。慣習法、自然法が本来の姿だ。日本人は、条約や憲章など、文字に書かれたものが国際法だと思ってしまうので、国際法の本質がわからない。
すると、どうなる。各国のふるまいが一致しないことがある。イラクがクウェートに攻め込んだ。ロシアがウクライナに攻め込んだ。中国が台湾に攻め込むだろう。国際法違反だ。そんなとき、どう行動すればよいかわからなくなる。