2022.12.31
「なんでうちのお父さん助けてくれなかったの!」転覆漁船の生還者に浴びせかけられた「仲間の遺族」からの怒声
第58寿和丸。2008年、太平洋上で碇泊中に突如として転覆し、17人もの犠牲者を出す事故を起こした中型漁船の名前である。事故の直前まで平穏な時間を享受していたにも関わらず起きた突然の事故は、しかし調査が不十分なままに調査報告書が出され、原因が分からず「未解決」のまま時が流れた。
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ジャーナリストの伊澤理江さんが、この忘れ去られた事件の真相を丹念な取材で描いた『黒い海 船は突然、深海へ消えた』から、生存者3人を待ち受けた容赦ない現実が描かれた場面をお届けする。(全18回の第9回)
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ジャーナリストの伊澤理江さんが、この忘れ去られた事件の真相を丹念な取材で描いた『黒い海 船は突然、深海へ消えた』から、生存者3人を待ち受けた容赦ない現実が描かれた場面をお届けする。(全18回の第9回)
第1回はこちら
ショックでうまく口がきけない
この日の新聞各紙朝刊には「漁船転覆4人死亡」「行方不明13人」といった大見出しの記事が載っていた。現場海域の航空写真も各紙に掲載されている。写真のうち、海上保安庁提供の一枚には、捜索に当たる僚船と第58寿和丸が残した黄色いロープが写りこんでいた。同庁によれば、沈没現場は水深5000メートル程度もある。そんな深い海に仲間たちはいるのかもしれない。

救助された3人はショックが大きく、陸に上がってもうまく話ができなかった。病院でメディカル・チェックを受けると、大きなケガはなく、検査データにも異常はない。
その後、豊田、大道、新田の3人は対策本部ができていた漁協に行き、家族が待機する広間に足を運ぶことになった。時刻は、昼の12時を過ぎたころだ。