2023.01.01
原因は、絶対に「波のせいじゃない」…漁船転覆事件の「謎」と深まる「疑惑」
『黒い海 船は突然、深海へ消えた』第58寿和丸。2008年、太平洋上で碇泊中に突如として転覆し、17人もの犠牲者を出す事故を起こした中型漁船の名前である。事故の直前まで平穏な時間を享受していたにも関わらず起きた突然の事故は、しかし調査が不十分なままに調査報告書が出され、原因が分からず「未解決」のまま時が流れた。
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ジャーナリストの伊澤理江さんが、この忘れ去られた事件の真相を丹念な取材で描いた『黒い海 船は突然、深海へ消えた』から、事故の原因についてある「疑念」が強まっていく場面をお届けする。(全18回の第10回)
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ジャーナリストの伊澤理江さんが、この忘れ去られた事件の真相を丹念な取材で描いた『黒い海 船は突然、深海へ消えた』から、事故の原因についてある「疑念」が強まっていく場面をお届けする。(全18回の第10回)
波による傾きとは明らかに違った
事故後、国の聴取に対し豊田吉昭は次のように語っている。記録の作成者は事故調査を担う国土交通省所管の運輸安全委員会だ。

「2回目の衝撃は、『ドスッ』という音と『バキッ』という音が重なったような音で、船体がどのように振動したかは覚えていませんが、反対舷に戻ることなく、右舷への傾きが徐々に増したので、転覆の危険を感じ、ベッドから出て、一目散に(略)船橋甲板左舷側の出入口を目指しました。確認したわけではありませんが、『バキッ』という音は船体が折れるようなものではなく、甲板上の構造物が破損するような音でした」