FRaUが全国の新聞社とパートナーシップを結び、日本各地の高校・大学生らと、サステナブルな未来を切り開く「FRaU×Z世代SDGsプロジェクト」。神戸に続く第二弾の舞台は長野。「長野の私たちから地球の未来を変えるはじめかた。」と題し、信濃毎日新聞社の協力のもと、長野の学生のみなさんとオンラインでディスカッションを実施した。テーマは、長野県が力を入れている「ジェンダー」について。今回のテーマは、長野県が力を入れている「ジェンダー」について。キーワードになったのは、多様性、個人の尊重、固定概念からの脱却。学生生活を送るうえでみなさんが違和感を抱いていること、疑問に感じていること、大人に求めることなど、率直な思いを語り合いました。

登壇者はこちら!


長野県の高校・大学生らのみなさん


ソーシャルグッドプロデューサー石川淳哉


ながのアド・ビューロ 古川聡


FRaU編集長兼プロデューサー関龍彦

制服で性別を分けることが、ジェンダー問題の根源を作っている

まず前回同様に、司会を務める石川淳哉から、挨拶とともにディスカッションにおける「ちょっとした約束ごと」の説明からスタート。

1 誰の意見も大切。否定しないで受け取ってみること。
2 地球の未来を少しでも良い方向にできるアイデアを募集。
3 知るだけではなく行動が変わっていくようなアイデアがベター。
4 質問や意見を思いついたら自由にチャットに書き込もう。
5 ここから始まる、私たちで未来を変える気持ちを持つこと。

以上5つの条件を参加者全員の共通ルールとして、「FRaU×Z世代SDGsプロジェクト」第二弾の幕を開けた。はじめに「ながのアド・ビューロ」古川さんによる、長野SDGsプロジェクトの取り組み紹介から。

古川聡(以下、古川):みなさん、こんにちは。まず長野SDGsプロジェクトについてお話させてください。2019年、長野のSDGs認知度はたったの3.3%しかありませんでした。非常に低い数字ですね。そこで信濃毎日新聞社とともに全県にSDGsを広めていくことを目的に、プロジェクトを立ち上げました。これからの未来を担う長野県民のお子さんらがSDGsを学べる場を提供し、「教育」をトリガーとして、企業や地域、行政や家庭のみなさんに関わっていただくことで、SDGsの認知拡大に向けた活動をしています。

その内容を簡単に説明すると、まずは「出前授業」と言って、学校にSDGsのスペシャリストを招いて子どもたちにお話いただいたり、また教員の方々に向けてのセミナーなども開催しています。そのほかにも、長野県のSDGsの取り組みを紹介するテキストをはじめ、さまざまなオリジナル教材を作ったり講座を開いたりもしています。また、おととし開催したイベント「CHANGE for GIRLS from NAGANO 2020」では、女性のエンパワーメントをテーマにディスカッションを行うなど、長野県ではジェンダーの取り組みにも力を入れています。

本日は、そんなジェンダーにまつわる課題について、みなさんの意見をお聞かせいただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 
左上・石川淳哉さん 右上・関龍彦 下・古川聡さん、信州大学 経法学部 内田佑香さん

石川淳哉(以下、石川):非常に残念なことに、世界経済フォーラムが2022年7月に発表した「ジェンダーギャップリポート」では、日本は146カ国中116位。2021年は120位でしたので順位は少し上がりましたが、まだまだ低いと言えます。

月経や更年期による経済損失は年間約1.6兆円、女性が月経やPMSで苦しむ日数は一ヶ月のうち約2/3、更年期症状が原因で離職した女性は3年間で約46万人というデータがあります。それ以外にもジェンダーの格差はたくさんあります。そこで今回は、ジェンダー格差をどうすればなくすことができるのか。一緒に考えていけたらと思います。

ウクライナとロシアの戦争が長引いていますが、争いは相手のことをきちんと理解できていないから起こるもの。双方の違いを認め合い、世界が会話していけば、戦争を止めることにもつながるのではないか。そんな風に感じています。

それでは、本日のディスカッションのコーディネーターを務めてくださる信州大学の内田佑香さんにバトンタッチします。

信州大学経法学部 内田佑香(以下内田さん):今日は皆さんぜひ本音で、自分の言葉でディスカッションしていただければと思います。では一つ目の議題は「性別による制限」について。着眼点やエピソードなど一人ひとり違うと思います。学業やライフプランによっていろんな考えがあると思うので、パネリストのみなさんにお伺いしたいと思います。文化学園長野高等学校 丸山詩乃さんからご意見お聞かせいただけますか?

文化学園長野高等学校 丸山詩乃(以下丸山さん):ジェンダー問題は大きく二つに分けられると思います。一つはジェンダー平等の問題。これは管理職や国会議員の数の男性比率など数字として目に見える不平等、格差にあたります。もう一つは、ジェンダーバイアスの問題。LGBTの問題も含まれていて、数値化できない生きづらさの問題だと考えます。このことから、私は制服を性別で分けなければいいんじゃないかなっていうふうに思いました。制服で男子女子の区別をされてしまったら、男子、女子はこうであるという固定概念が育ってしまい、ジェンダー問題の根源を作ってしまう。これが学校の隠れたカリキュラムであり、性別による制限になると思いました。

文化学園長野高等学校 丸山詩乃さん

内田さん:制服による性別の区別が学校の隠れたカリキュラムであるというお話がありましたが、信州大学の武田さんはいかがですか?

信州大学人文学部 武田恵(以下武田さん):性別により制限を感じることは、ライフプランにおいてです。女性は結婚や出産により、男性よりも諦めなければいけないことが多いと感じています。たとえば育児の手助けができるよう、もっと男性が育休を取りやすくなったり、産休からの職場復帰がしやすくなるように女性を手助けする社会制度がもっと充実したら、性別による制限は今よりも減るのではないかと思います。

内田さん:本日は、学生だけでなく、個別指導塾「学び舎かなえ」北澤香寿美さんにも社会人としてご参加いただいております。北澤さんは、ライフプランやキャリアにおいて、性別の制限を感じることはありますか?

「学び舎かなえ」北澤香寿美(以下北澤さん):社会人三年目です。結婚や出産願望と同時に、仕事も頑張りたいし、人生の目標に向かっても進み続けていきたいという思いがあります。けれど、先ほど武田さんのお話にもあったように、出産したらその前後は働けないし、もしかすると結婚する相手の仕事に合わせて、長野を離れないといけなくなるかもしれないのかな、など考えると不安を感じます。男性よりも女性の方が、ライフイベントの影響を受けやすいですよね。

信州大学教育学部 関拓人(以下関さん):僕はいま日本国憲法を学んでいるのですが、第二十四条では「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とされています。婚姻の条件は、法の下の平等であり、結婚したら女性が男性側の家の戸籍に入ることも、男性の仕事の都合に合わせて住居を移すことも決められていません。もし僕がこの先結婚するとなっても、女性の家の戸籍に入ることに抵抗はありませんが、やはり結婚したら女性が男性側に合わせなくてはいけないという背景は、今もあるのでしょうか。

信州大学 教育学部 関拓人さん

北澤さん:そうですよね。昔の風潮が根強く残っているのかなと。先ほど武田さんの話にもありましたが、社会制度の改革は進みつつあるとはいえ、やはり人々の根底にある価値観が変わらないことには、偏見や生きづらさを抱え続けることになると思います。制度の改革ももちろん、その価値観に働きかける何かが必要なのでは。

内田さん:佐久長聖高等学校 甘田さんは、いずれ社会人として働くことを想定し、職業や就職に対してなにか感じていることはありますか?

佐久長聖高等学校 甘田七乃羽(以下甘田さん):職業に対する男女のイメージが、性別による制限を作っていると思います。私自身も含め、インターネットなどでも、体育教師は男性、保育士は女性というように偏見を持っている人が多い。また学部においても、理系の女子は薬学部というイメージが強く、理工学部への進学を希望しても反対する親が多いという記事も見かけました。さまざまな職業で男女の比率が同じくらいになるよう労働者を集めれば、このような偏見も消え、学生たちも自由に未来構想ができるのでは。自分が本当にやりたいことが見つかり、もっと個々の人生が豊かになっていくのではないでしょうか。

内田さん:自分の価値観を大事にしつつも、その価値を相手に押し付けないことが大事ですね。ではどうすれば“性別による制限”が解消されるのか。さらに話していきたいと思います。

文化学園長野高等学校 神田紗希(以下神田さん):まずいろんな価価値を受け入れるが必要ですよね。例えば学校の制服。男子がスカートをはいたり、リボンをつけたりすることを受け入れるなど、誰もが自分の好きなスタイルを選べるようにすることで、ダイバーシティに繋げていけるのではないでしょうか。

文化学園長野高等学校 神田紗希さん

内田さん:学校の制服について神田さんからお話し頂きましたが、長野日本大学高等学校が、何か新しいプロジェクトを立ち上げたというのをメディアで拝見したことがあるんですが、ご説明いただいてもよろしいですか。

長野日本大学高等学校 梅野真央(以下梅野さん):私の通う学校では、今年から「ジェンダーレス制服」と称して、制服における性別の制限をなくしました。制服のブレザーは、左側の布が上にくるのが男子、その逆が女子、という風に決まっていましたが、その制限をなくしました。さらに男女問わずスカート、スラックスが選べるほか、リボンとネクタイも性別関係なく自由につけられるようになりました。このようなジェンダーレス制服がもっと広がっていけば、性別による制限はなくなっていくと思います。

信州大学工学部 鳥谷部方人:私はジェンダーによる格差をなくすのには、男性と女性、それぞれに対する固定概念をなくすことが重要だと思っています。女性は家事や育児をするもの、男性は仕事をして家族を養うものといった固定概念がありますよね。たとえば女性が多い保育士にの求人広告に男性が出たり、男性が多い建設業は、女性が出ることで、そのような固定概念が取り払えるのではないでしょうか。

信州大学 工学部 鳥谷部方人さん

関さん:ちなみに僕の家庭では、父が働き、母は専業主婦です。以前テレビでフェミニズムの先駆者である田島陽子さんが、専業主婦は奴隷制度だと発言されていたんです。それをみた母がすごく怪訝な顔をして、専業主婦をしているのは自らの意志だと言っていました。今まで働いてきたけれど、子どもの成長も近くで見守りたいし、今の私にはいちばん合っているからと。父に従属しているつもりは全くないし、専業主婦として生きていきたいならば生きていけばいいと。いくら古風だと言われても、自分で選んだことならいいんじゃないかなと思います。

内田さん:多様な働き方や価値観が広がってくる中で、専業主婦という選択も、制限なく自由にできる社会になっていくといいですね。

信州大学経法学部 上野颯馬(以下上野さん):僕は性別による格差をなくすには、機会の平等を確保すべきだと思います。その中でいちばん大事な教育ですね。機会の平等について、子どもでも分かりやすいように義務教育で教えること。小学校の頃に学んだことって、大人になっても結構影響するものだと思うので。

清泉女学院大学人間学部 黒岩芽生(以下黒岩さん):教育ももちろん大切ですが、私は家庭内の習慣も大事だと思っていて。関さんのお母さまのように、自ら専業主婦を選んでいるということをきちんと子どもに伝えることで、その子どもそのような選択肢があることを知ることができる。ちなみに我が家では、家事をするのはすべて母。そんな姿を見てきたので、子どもながらに家事は女性がするものだとずっと思っていました。でも、もし父も家事をしていたら、家事はふたりで分担するものだと思っていたはずです。家庭内の習慣によって、思考や価値観は変わってくるので、学校での教育だけじゃなく、親たちから変わっていかないと、価値観のアップデートはされないんじゃないでしょうか。