江戸時代と変わらぬ技法の和蝋燭

八丁味噌、石工品や和蝋燭など、岡崎市は江戸時代からの伝統を守り続けるものづくりの街でもある。和蝋燭では現在、『松井本和蝋燭工房』と『磯部ろうそく店』の2つの工房が三州岡崎和蝋燭として認定されている。今回は、創業明治40年の『松井本和蝋燭工房』を訪ねた。満性寺で使われている蝋燭はこちらの和蝋燭で、工房は寺から徒歩5分の場所にある。

今も百年以上前の伝統技術が守り続けられている和蝋燭。松井本和蝋燭の三代目、松井規有さん。 写真/さとゆめ
 

蝋燭は6世紀の半ば頃、仏教とともに海を渡って伝来したとされている。当初は宮廷や一部の寺院でしか使えない貴重品で、庶民は椿油や菜種油に灯芯を浸して明かりにしていたようだ。それが、一般の人たちでも手軽に使えるようになったのは、江戸時代。ハゼの実から作る木蝋燭の生産が進み、広く利用されるようになったとされる。創業110年以上のこちらの工房では、江戸時代から続く手づくりの製法が今も受け継がれている。

「昔ながらの和蝋燭は、本体の蝋も灯芯も、ハゼや灯芯草などすべて国産の純植物性原料で作ります。そのため油煙が極めて少なく、パラフィンなど石油系の材料を使う洋蝋燭に比べて、風が吹いても炎が消えにくいという特徴もあります」
と、四代目の松井深恵さんが話してくれた。

伝統の和蝋燭を引き継ぐ四代目の松井深恵さん。写真/FRaU編集部

地球に優しい植物性原料であることや、油煙や液だれが少ないため現代の密閉された住居空間でも安全に使えて、仏壇の煤も洗浄しやすいということで、SDGsな視点で改めて、その価値が見直されている和蝋燭。ハゼの実を搾って固めた石鹸のような木蝋を溶かし、それを芯に何重にも重ね塗りして本体の形が出来上がる。

深恵さんの父、三代目の規有さんが、隣でその作業に打ち込んでいた。その手元に思わず見入ってしまう。何層になるまで塗り重ねたら出来上がりなのか、そのサイズ感を、規有さんは手の感覚で覚えているという。「江戸時代の職人も、みんなそうやって作っていたんだと思いますよ」と規有さん。

「和蝋燭はわりとほの暗い灯ですが、どこか神秘的な力強さもあって、炎には癒しの効果もあると言われています。火をつけて5分後くらいにとても素敵な炎になるんですよ」

と、深恵さんが目の前で火を灯してくれた。きっと、家康公がいた岡崎城でも同じような灯があちこちに灯されていたのだろう。

家康の時代と変わらない炎を灯す和蝋燭。写真/FRaU編集部