2022.12.29

「フードポルノ」「貧困ポルノ」…性的じゃないものを、なぜ「ポルノ」と呼ぶのか? 「美学」が教える“一つの答え”

レイの見解を拡張することで、性的でないポルノを含むポルノ一般の定義が得られるとグエンとウィリアムズは提案しています。すなわち、○○ポルノとは、○○に実際に関わる際に通常生じるコストを避けつつ、即時の満足を得るために用いられる表象のことです。

極端な方向に走りがち

この定義が本来のポルノだけでなく、性的でないポルノにも適用できることを確認してみましょう。フードポルノの場合、高級料理にかかる莫大な費用や高カロリー食品が健康に与えるリスクを気にすることなく楽しむことができます。不動産ポルノの場合、豪邸を購入する必要がないのはもちろん、景観を維持すべく手入れを行う必要もなく、心地良い感覚を得ることができます。

また、グエンとウィリアムズは面白い指摘をしています。性的なポルノがそうであるように、現実の複雑な状況に対応する必要がないため、ポルノは一般に極端な方向に向かう傾向にあります。フードポルノに描かれる食べ物はとことん不健康だったり、高価だったりすることが多く、不動産ポルノに描かれる不動産ははとことん豪華だったり、手入れが難しかったりすることが多いのです。

フードポルノや不動産ポルノとは違い、貧困ポルノは道徳的懸念が生じるポルノの例になります。貧困ポルノは貧しい人々のステレオタイプな表象ですが、私たちはこれを用いることで、現実の社会格差に向き合うことなく、自分の共感性を確認することで罪悪感を軽減させたり、優越感を覚えたりすることができるでしょう。

そして、こうした満足感が単純化された社会認識によって効果的にもたらされるとすれば、私たちは容易に手に入る快楽のために、社会格差の是正に欠かせない正しい認識を遠ざけてしまう可能性があるのです。