2023.01.31

なぜいま「日本産ウェブトゥーン」の「中国アニメ化」なのか…中国の動画配信サービス大手ビリビリが見据える未来

中国の動画配信サービス大手bilibili(哔哩哔哩)は、ライブ配信やアニメの製作・制作やゲーム事業、そしてマンガ/ウェブトゥーンも手がけ、今では日本法人も4事業部100人体制で展開している。目下、新規事業として取り組んでいるのが、日本や韓国で作った新作ウェブトゥーンを中国で二次展開(とくにアニメ開発)する、というものだ。

この新規事業の室長が金 春成(きんしゅんせい)氏だ。2010年から日本コンテンツの中華圏流通業務を行い、2015年から電子書籍取次大手メディアドゥで中国ビリビリ、韓国カカオページおよび北米の六大電子書店に日本コンテンツの配信と海外コンテンツの輸入業務担当を経て2022年にビリビリにジョインした。中国東北地方出身の朝鮮族で、中国語、韓国語、日本語のトリリンガルであり、3国のコンテンツ産業の動向に精通している。

金氏に中国企業のマンガ・アニメ業界動向と、それを踏まえてなぜ「日本産ウェブトゥーンの中国アニメ化」なのかを訊いた。(前後編の前編)

 

中国で話題性を作り、日本と韓国で売上を作って二次展開につなげる

――まずは中国マンガ市場の現状から教えてください。

 その昔は中国の会社も日本のように週刊マンガ誌や月刊マンガ誌を作り、一時期は発行部数数百万部のものもありましたが、それでも「マンガ」と言えば日本発のものが中心でした。ウェブやスマホの時代になってもしばらくは日本マンガ方式のページビュー(マンガを版面1ページごとにスマホやタブレットのディスプレイに表示する形式)が一般的でした。

しかし近年、韓国ウェブトゥーンの盛り上がりがきっかけになり、中国で作られる作品も縦スクロールフルカラーが主流になっています。韓国のやり方をうまくマネできていなかったときにはフルカラー縦スクロールだけれどもコマ割りしているマンガもありましたが、最近の中国産コミックはほとんどウェブトゥーン形式です。

中国では日本や韓国のようにデジタルで連載したものを紙で単行本化するというビジネスがさかんではありません。もっと言うと出版市場の中に「マンガ」というカテゴリーがない。「児童書」か「絵本」として扱われます。中国は出版審査が厳しく、申請を出してもコミックがISBNを取れることが少ないんです。日本の有名なマンガも紙で出版するのはだんだん厳しくなってきています。一方でデジタルは政府の事前審査ではなくプラットフォームの判断に委ねられていることもあり、デジタルシフトが進んできました。

――韓国ウェブトゥーンだけでなく、中国マンガも2021年頃から日本の各種マンガサービスでかなり配信されるようになってきていますよね。

 はい。5、6年前までは、中国のマンガ事業者は国内マーケットを狙って制作していました。でも中国のマンガアプリ業界は課金率が低く、販売単価も非常に安いんですね。よく中国の「動漫」市場の規模として発表されている数字はマンガとアニメを足し合わせたものであり、マンガだけで見ると規模は決して大きくありません。ですからマンガは売上を大きくあげる媒体というよりも、数億に及ぶユーザーの認知を取り、さらにその先の映像化やゲーム化といった二次開発につなげてその契約金で利益を上げるというビジネスモデルになっていました。

ところが2020年代以降、日本や韓国など海外市場のほうが中国市場よりも課金率や課金金額が圧倒的にいいこともあり、弊社も含めて海外市場を目指してオリジナル作品を作り、グローバルでシェアを広げていこうという流れに変わってきています。日中同時配信をして、売上と話題をそれぞれ作って二次展開に持っていくのがいい、と。

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