2022.12.31

「残響散歌」「ミックスナッツ」「新時代」…ヒット曲から見る「2022年音楽シーン」の「2つの特徴」

柴 那典 プロフィール

そして、もうひとつ、ヒットチャートから見えてくる2022年の特徴は「ラブソングの復権」だ。

総合ソングチャート2位のTani Yuuki「W/X/Y」は、2021年5月のリリースながら今年に入ってストリーミングサービスで異例のロングヒットを記録した一曲。Tani Yuukiは1998年神奈川県生まれのシンガーソングライターで、2020年5月にリリースしたデビュー曲「Myra」がTikTokで大きな反響を呼びCMソングにも起用され注目を集めた。その人気は1曲だけの話題性に終わらず、「W/X/Y」でいよいよ本格的なブレイクを果たした形となる。「似た者同士こうして 年老いるまで笑っていたいね」と心地よいリズムに乗せて愛し合う二人の幸福な関係を描く楽曲が10代を中心に広く支持を集めた。

「ドライフラワー」が昨年の総合ソングチャート1位となったシンガーソングライターの優里は、今年もTOP10に「ベテルギウス」「ドライフラワー」の2曲を送り込んでいる。女性目線から恋人との別れを歌った「ドライフラワー」に続き、ドラマ『SUPER RICH』主題歌として書き下ろされた「ベテルギウス」も「僕ら 肩並べ 手取り合って進んでく」と夜空の星に二人の関係を喩えた一曲だ。

躍進を果たした新世代バンドのヒット曲も歌詞に特徴がある。総合6位のSaucy Dog「シンデレラボーイ」は、すれ違う関係の中で終わりに向かう恋の心模様を女性目線で描いた一曲。総合8位のマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」は、少し不器用な男性の恋愛感情を等身大の言葉で巧みに表現した一曲だ。

実は、2018年と2019年のBillboard JAPAN年間総合1位となった米津玄師「Lemon」や、同じく2020年総合1位のYOASOBI「夜に駆ける」、2021年に社会現象を巻き起こしたAdo「うっせぇわ」など、ここ数年は、恋愛をモチーフにしていない曲がその年を代表するヒット曲となることが続いていた。特に若い世代の間でラブソングへの渇望が高まっている背景には、コロナ禍を経て社会に日常の風景が少しずつ戻ってきた2022年のムードも関連しているのかもしれない。

そうした状況を踏まえて考えると、TVerでの累計見逃し配信数が歴代最高記録となったドラマ『silent』(フジテレビ系)の大ヒットにも合点がいく。Netflixで配信中のドラマ『First Love 初恋』も、モチーフとなった宇多田ヒカル「First Love」と共にヒットしている。どうやら2022年は切ない純愛ラブストーリーが大衆に求められた1年でもあったようだ。

ドラマ『silent』主題歌のOfficial髭男dism「Subtitle」は、2022年12月28日公開のBillboard JAPAN 総合ソングチャート「JAPAN HOT 100」で通算8度目の首位を獲得し、ドラマと共に記録的な大ヒットとなっている。このままの勢いが続くならば2023年上半期のヒットチャート上位となることは確実だ。

「純愛の復権」は2023年もエンタメの一つのキーワードになりそうだ。

 
SPONSORED