国民的女優・泉ピン子さんの連載第8回目。人生相談や時節を感じさせるテーマなどをピン子さん流のユーモアを交えながら、ざっくばらんに語っていただきます。「人生、いい日もあれば悪い日もある」とピン子さん。豊富な経験に裏打ちされた人生トークに心の底から共感すること必至です。今回のテーマは泉ピン子さんが諸先輩方から学んだ「お金の使い方」。

これまでの連載を読む→ピンからキリまで”おんなの流儀”
飯倉キャンティでのカルチャーショック
今でこそ若い人には、「無駄遣いはしないで、なるべくお金は貯めておきなさい」なんてことを言うようになりましたけど、私は若い頃、「一生に一度もし売れたら、自分のお金で好きな洋服を買って、一流のところで人にご馳走になるんじゃなくて、自分のお金で好きなものが食べたい」と思っていました。人にご馳走になったりするのが好きじゃないのは、すぐ「お返ししなくちゃ」って思ってしまうから。
でも、そんな私でも、森光子さんには、ずいぶんご馳走になりました。それから、自分がやってもらって嬉しかったことは、後輩にやってあげたいと思うようになった。芝居のことはもちろんだけど、森さんからは、お金の使い方も教えていただいた気がしています。
六本木のしゃぶしゃぶや、赤坂にある老舗のお蕎麦屋さんに連れて行ってもらったときのエピソードは前にもお話しましたが、いちばんカルチャーショックだったのは、飯倉のキャンティだったかもしれないわね。本格的なイタリアンを初めて日本に広めたお店で、深夜まで営業しているから、来ているお客さんも、芸能人とか業界人ばかり。
そこで、森さんが、「ここはね、仔牛のカツレツがオススメ。生牡蠣でもカニでもズッキーニでも、好きなものをチョイスすればいいの」ってスラスラ言われたときは、何を言っているか全くわかりませんでした。ワゴンの上には、新鮮な食材がズラリと並んでいて、「あれがズッキーニよ」って森さんが教えてくれたんだけど、私には、花のついたキュウリにしか見えなくて……。「パスタはバジリコ、スープはミネストローネ」なんておすすめされても、味の想像がつかないから、最初は注文もおっかなびっくりでした。