2023.01.01

「ありいんす」「そうざます」…江戸の遊廓で「吉原言葉」が発明された、深すぎる理由

コロナが猛威を振るった2020年、政府は多くの補助金を出したが、一部の性風俗産業に従事する人にはそれが支払われなかったことが大きな話題を呼んだ。

セックスワークをどう捉えるか、どう社会のなかに位置づけるは、その社会にとって、つねにきわめて重要な問題である。

ところで、現代のセックスワークの問題をじっくりと考えるのにあたって参考になるのが、「遊廓」の事情だ。

日本にとって「遊廓」とはなんだったのか。

それを知るのに最適なのが、江戸時代の遊廓の実態をつぶさに描いた『遊廓と日本人』(田中優子著、講談社現代新書)である。

遊女が置かれた厳しい環境、一方でそこから生まれた絢爛な文化など、日本史の陰影の一端をご覧いただこう。

「吉原言葉」の魅力

江戸の遊廓と言えば、吉原言葉も名物です。多くの地域、特に東北から女性たちが来ていたので、吉原語を作ってしまって、これを遊女に覚えさせたわけです。守貞が挙げているのは「そうざます」「いやざます」「言いなます(言いなされますの意味)」「参りんした」「やりいんした」などです。「ありましょう」は「ありいんしょう」「ありいんす」などと表現しました。

井上ひさしは『表裏源内蛙合戦』(1970)で、主人公の平賀源内に「吉原を吉原たらしめていたのは廓ことばだ」と言わせています。山東京伝も『通言総籬』の中で「よしておくんなんし。ばからしい」「きいした(来ました)」「じゃあおっせんかへ(〜じゃあないか)」「お見せなんし」「お見なんし」「すかねへぞよぅ」「うれしうおす」などを実況中継のように記録しています。やはり廓言葉に大きな関心を示しています。