大人がやるべきことを背負わされた子ども

40代の優しい母親に、車で出かけた先で置いていかれたら、小学生の子どもはどう思うだろう。
まさかそれが、認知症のせいなどと思うだろうか。

家族の介護などを担う18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と言う。
ヤングケアラーが日常的に担っているのは、障がいや病気のある家族の⾝の回りの世話、掃除、洗濯、料理、買い物などの家事、幼い兄弟の世話や慢性的な病気の家族の看病など多岐にわたる。
そうした家事や兄弟の世話を、「手伝い」などとの言葉では片づけられないのは、本来は大人がやるべきことを負わされた子どもが、自らの権利を脅かされる状態にあるためだ。

『48歳で認知症になった母』(漫画:吉田美紀子、原案:美齊津康弘/KADOKAWA)は、11歳にしてヤングケアラーになった美齊津康弘さんの、衝撃の実体験をつづったマンガだ。優しくて頭が良くて、もと国体の陸上選手だったやすひろさんの母は、48歳の若さで若年性認知症を発症する。小学校5年生だったやすひろさんは、仕事で毎晩遅い父、遠方に嫁いでいる姉、高校生の兄に代わって、母の動向を気に掛けながら家事をすることに……。

『48歳で認知症になった母』(漫画:吉田美紀子、原案:美齊津康弘 / KADOKAWA)

美齊津さんの衝撃体験をマンガにした連載は、2022年2月よりウェブサイト「レタスクラブ」で始まり、同年10月末に580万PVを記録。作画を担当する吉田美紀子さんも、ホームヘルパーの介護経験者だ。

連載第1回のマンガでは、まだ40代の明るく優しい母に何が起こったのか理解できず、戸惑うやすひろさんの姿をお伝えした。鏡に向かって話しかける母ににこやかに近寄ると、まったく知らない母がいたのだ。思い起こせば、「異変」に気づいたのは、ショッピングセンターに買い物に行った際、置き去りになれてしまったことだった。しかし認知症などと思うはずもない。マンガからは、小学生のやすひろさんが「お母さんはどうしたのか」と思い悩む様子も伝わってくる。

実は、原作者である美齊津康弘さんは、家族の世話をするヤングケアラーであった自分の過去をほんの数年前まで誰にも話さなかったという。それは自分の体験が稀有であり、誰かに理解してもらえると思えなかったからだと言うが、それがなぜ今伝えようと思うようになったのだろう。美齊津さんに聞いた。

 

「『ヤングケアラー』が自分の境遇と一致していただけでなく、今の世の中に、かつての自分のような子供がたくさんいることに衝撃を受けました。

ヤングケアラーは自らSOSを発信することはほぼありません。その分、周りの大人が気付いてあげたい。子供に関心を向けてくれる大人が増えてほしい。
そんな思いから、自分の体験を発信するようになりました」

「ヤングケアラー」は、2021年の流行語大賞にノミネートされるなど注目が集まるようになった。Twitterでも「今思えば自分もそうだった」「半年前から自分も背負うようになった」「介護していた時、義母に対してとても言動がきつくなってしまった」など、当事者やかつてのヤングケアラーからも多くツイートされている。
美齊津さんも「語ってみると、共感されたり、興味を持って聞いてくださる方が多くいて、世の中の理解が進んできたことを感じました」。

だがマンガは40年近くも前のこと。まだ「ヤングケアラー」などとの言葉もなく、相談できる大人も周りにいなかったのだ。

壮絶なヤングケアラーだったやすひろさんの日々を、漫画の試し読みでお伝えする。