俵万智×川原繫人 歌人が見ている言葉の世界を、言語学者が覗いてみた

奥深き日本語を巡る特別対談・前編

出会いのきっかけ

 川原先生と繋がった最初のきっかけはTwitterでした。私が先生をフォローしていて、ある日ふとツイートが目に入ったんです。

そこで先生がご自身の著書『「あ」は「い」よりも大きい!?』('17年、ひつじ書房)を文庫化したいと書かれていて、「もし文庫化するなら私が解説を書きます」とリプライしたのが始まりでした。

川原 あれには驚きました。まさか俵万智さんが自分のツイートに反応してくれるなんて、夢にも思いませんでしたから。しかも、解説を書いてくれるというオファーだったので、家族みんなでびっくりしましたよ。

私も以前から俵さんの作品のファンで、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』('22年、朝日出版社)の中でも短歌を紹介させてもらいました。「『今いちばん 行きたいところを言ってごらん』行きたいところは あなたのところ」(’87年、角川書店『とれたての短歌です。』より)という歌です。あとでじっくり解説したいと思いますが、この作品は、字余りが言語学的に非常に理にかなった方法で使われている例です。

 普段、自分が短歌を詠むときは、言葉について学問的なことは考えずに行なっています。それを音声学的な視点で分析してもらうと、自分の言葉を客観的に捉えることができる。先生の分析を読んで、自分の短歌なのに目から鱗が落ちるようでした。

川原 そう言っていただけて嬉しいです。私は芸術家や言葉のプロの方々が無意識でやっていることに対して、作品自体へのリスペクトは大事にしながらも、科学的な裏付けをしたいと思っています。言葉に生きる人たちがいかに凄いことをやっているのか言語学的な観点から実証したい。でも、それは科学者である私が、外部の立場から勝手にやっていることなので、作品を作った本人たちからどう思われているのか不安でもあります。いわば、みなさんの作品を勝手に分析対象にしてしまっているわけですから。

 いえいえ、自分の作品を真剣に分析してもらえるのは新鮮な経験です。