医学部を目指していた優秀な女性が、ホストクラブに入り浸り、ついには「大量服薬」…その「意外な原因」

ADHD・ASDの人たちが病であるならば、そのような特性を持たない「普通の」人たちもまた、「人に求められるような自分であることを極度に目指してしまう」という意味で病なのではないか。

精神科医の兼本浩祐氏が、ADHD・ASDでない「健常」な発達の人々についてそのような視点から考察した『普通という異常 健常発達という病』から、ある優秀な女性が母親からの承認を得ることを目指して努力し続けた末に取った選択について紹介する。

大量服薬をして救急に

エリさんは、3ヵ国語が話せる今年30歳になる才媛です。

エリさんのお母さんの兄弟はみな医者になるか、旧帝大系の大学を卒業しているエリート家系でしたが、お母さんは私立の文学部を卒業した後で、紆余曲折の末に、歯科医の先生と結婚されます。しかし、親戚の集まりで肩身が狭いという思いが募り、夫に絶えず不満があり、エリさんが小学生の頃にエリさんを連れて離婚されました。

姪や甥がつぎつぎに有名大学の医学部に入学するなかで、お母さんはエリさんを医学部に入れようと子どもの時からスパルタ特訓をされました。

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エリさんもその期待に応えて懸命にがんばったものの、高校2年の時に原因不明の高熱を出して入院してしまい、その後、成績がもとのようにはなかなか持ち直さず、結局時間切れで医学部受験には失敗してしまわれました。

浪人して2回目の医学部受験にも失敗したエリさんは、もともと関心のあった外国文学を学ぶ学科に生まれて初めてお母さんの反対を押し切って入学され、ずいぶんがんばって特待生になるのですが、3年生の時に、再び体調を崩し、留年してしまいます。

一方でエリさんと入れ替わるようにして、それまで成績がそれほど振るわずにお母さんがほとんど期待していなかった妹さんが、高校2年頃から急激に成績を伸ばして医学部に入学を果たします。

エリさんは、張り詰めていた糸が切れたようになってしまって、家を出て、キャバクラで働きはじめ、ホストクラブに入り浸るようになってしまいました。キャバクラで稼いだお金をホストクラブで使い、借金まみれになって今度は風俗店で働きはじめ、その頃、悪い男が借金の肩代わりをして、それをかたにして彼女を縛りつけ、にっちもさっちもいかなくなってしまいます。

しかし、致死量をはるかに超える大量服薬をして救急に運び込まれたのがこの状況を打開する転機になりました。彼女は保護され、長く音信不通だった歯科医のお父さんに連絡をして、弁護士を入れて、この借金は無事清算することができました。