歳出、増税に新たな足枷
1) PAYGOからCUTGOへの転換
これまで、義務的支出の拡大や減税による歳入の減少に際し、別の義務的支出の削減や増税など歳入増加によって相殺し、財政均衡を目指す“pay-as-you-go(PAYGO)”を規則として盛り込んできた。今回、共和党下院が可決した運営規制法案では、5年または10年の予算枠で義務的支出の純増を禁じ、新規の支出を相殺するための歳入増即ち増税も認めない“cut-as-you-go(CUTGO)”に切り替わる。
なお、深刻な景気後退局面などで必要な減税などの措置が完全に封じ込められるわけではない。むしろ、減税での赤字を問題視せず、義務的経費の拡大を防ぐもの。例えば共和党は2025年に期限切れとなる2017年成立のトランプ減税の延長を推進できる(他の減税はすでに期限切れ)。
2) 増税に必要な票数を引き上げ
増税の承認につき、下院ではこれまで過半数で可決されてきたが、今後は60%の賛成(425議席の場合は261票)が必要となる。ただし、共和党が僅差ながら過半数を掌握しているだけに、象徴的な変更と言えよう。
3) 予算と債務上限引き上げ法案の一本化要件を撤廃
下院は予算決議を採択すれば債務上限引き上げ法案と一本化させ、上院に送付できる通称“ゲッパート・ルール”を適用していたが、これを撤廃する。足元、米政府債務の上限は31.4兆ドルのところ、22年10月時点で既に31兆ドルを突破。超党派政策センター(BPC)によれば、米財務省による特別措置を講じても23年7~9月に債務不履行(デフォルト)に陥る見通しだ。回避するには上限の引き上げ実現が必要だが、ゲッパート・ルールの撤廃に伴い債務上限引き上げ法案交渉がチキン・レース化するリスクが強まる。格付け会社S&P(現S&Pグローバル)が米国の格付けを最上級のトリプルAから1段階引き下げた2011年のような、米国債ショックを彷彿とさせる混乱が生じかねない。
■図表3 米連邦政府債務残高と債務上限
―債務上限31.4兆ドル、22年10月時点の米連邦債務残高31兆ドル超ー
