2023.01.20

「僕が悪者になる」三木谷浩史が“楽天カード立ち上げ”の裏で社員を厳しく叱責した「意外な理由」

上阪 徹 プロフィール

三木谷が乗り込んでくる!

買収に際して、もちろんしっかりとした調査が行われていた。だが、クレジット事業と売却したオートローン事業とで、回収のリスクがある未収金額は合算して算出されていた。しかも、実はオートローンは未収率が低かった。逆に、未収率が高くなっていたのがクレジット事業だった。それをミックスすれば、未収はそれほど大きくないように見えていただけだったのだ。

「国内信販側は、この数字をちゃんと公開していなかったんですよ。もちろん僕らは、何度も未収についての資料を見せてくれ、と言っていました。ところが、そういう資料はない、の一点張りだった。そして分離をしてみたら、とんでもない数字が浮き上がってきたわけです」

しかも、穂坂が未収と考えていたのは、1カ月の滞納がある債権だった。ところが国内信販では、3カ月を未収と考えていた。改めて1カ月で未収金額を算出してみると、70億円もの規模になった。これを見て、三木谷は青くなったのである。当時の楽天の月商は、約150億円。穂坂も、これは大変なことになったと思った。

「穂坂さん、まずは朝会をやろう」

三木谷が穂坂を連れて朝一番の飛行機で九州に初めて向かったのは、2007年1月。買収から1年半が経っていた。

 

楽天の子会社になり、会社はどうなるのか、と楽天KCの社員が疑心暗鬼になる中で、とうとう楽天のトップの三木谷が直接、乗り込んでくることになった。

「社員は相当、驚いたでしょうね。しかも三木谷が決めていたのは、この会社の経営状況を包み隠さず社員に伝えることでしたから」

国内信販という会社は、赤字でかなり傷んでいた。実はもはや倒産寸前の状況だったにもかかわらず、経営陣は社員にそのことをまったく伝えていなかったのだ。そういう文化の会社だったのである。

「穂坂さん、それはやっぱりおかしいでしょう。実情をちゃんとみんなに見せないと」

三木谷は朝一番に全社員を集めた朝会の場で、会社が危機的状況にあることを伝えた。社内には、大きな衝撃が走った。続けて三木谷が語ったのが、どうやって立て直すか、である。キーワードはシンプルだった。

「回収! 回収! 回収! です。みなさん、とにかく未収率を下げてください」

3日後にまた来る、と三木谷が東京に帰ると、穂坂がそれを引き継いだ。どうやって回収率を高めるか、社員たちが議論を始める。だが、そのスピードは楽天では考えられないほど遅かった。

「三木谷が戻ってきますから、それに間に合わせようと社員は徹夜で資料を作るんですが、もう完全にピントが外れているんですよ。古い会社で、無駄な資料ばかり作る。三木谷もショックを受けていました」

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