いまさら聞けない…「遺伝子」「DNA」「ゲノム」って、それぞれ結局どういう意味ですか…?

「ゲノム」や「DNA」という言葉は誰でも知っているし、日常会話のなかでもよく口にする言葉です。しかし、それらが生命の情報だったり、設計図だったりすることはなんとなくわかっていても、それが具体的にどんな形で私たちの体の構造に現れるのか、理解するのは、なかなか難しいことです。

そこで今回は、このような情報や設計図がどのように伝わるかを、分子生物学者の中井 謙太さんに解説していただきました。

*本記事は『新しいゲノムの教科書――DNAから探る最新・生命科学入門』を一部再編集の上、紹介しています。

「ゲノム」「遺伝子」「DNA」…それぞれ何を指す?

よく知られているように、私達の体は元々1個の受精卵からできたものである。受精卵は成熟個体のすべての細胞の情報を保持しており、その情報は細胞が分裂するたびにコピーされていくので、基本的にはすべての体細胞が(核の中に)もとの受精卵と同じ全情報をもっている。

また、単に個々に分化した細胞の情報をもっているというよりは、未分化状態の細胞が分裂を重ねて、体づくりを行っていく指示書(プログラム)という形でもっているので、それをうまく起動できさえすれば、任意の細胞から、複雑な多細胞の個体を再生できることになる。この情報のことを、ゲノム情報、あるいは単にゲノムという。

すなわち、ゲノムとは、(厳密な定義は難しいが)ある生物がもっていて、その生物をその生物たらしめる全遺伝情報の一揃えと定義される。遺伝情報という言葉をはじめて使ったが、要するに細胞が分裂するたびに、あるいは生殖によって、親から子に伝えられる情報という意味である。

このようにゲノムとは、ある意味で抽象的な概念であるが、その情報の単位が遺伝子であり、その実体は、後述するように(核内)DNAという高分子物質である。

【写真】細胞が分裂するたびに伝えられていく遺伝情報遺伝情報は、細胞が分裂するたびに伝えられていく photo by gettyimages

意味が変遷した「遺伝子」という言葉

実は、遺伝子(英語ではgene)という用語の意味するところは、歴史的に変遷を重ね、また今日でも様々な文脈で用いられるので、その定義を簡潔かつ正確に述べることは不可能に近い。

遺伝子は元々、DNAなどの実体が解明される前からいわば仮想的にその存在が想定されたものである。すなわち、1860年代にメンデルによってエンドウの種子の形などの様々な性質(形質)の遺伝の法則を説明するために最初に導入された(メンデルは遺伝子という言葉を使ったわけではないが、同等の概念を提案した)。

その後、ショウジョウバエなどを使った遺伝学が、メンデルの研究成果が知られないままに、20世紀初頭頃から盛んになった。そして、仮想的な存在である遺伝子が、染色体上に並んでいることが知られるようになり、遺伝子が一次元的に多数配置された染色体地図が作られた。

また、ビードルとテータムは、アカパンカビの成長に必要な栄養素にかかわる突然変異の遺伝的ふるまいなどを調べることで、「一遺伝子一酵素説」を提唱した(1945年頃)。

酵素とは、生体内の化学反応を触媒する分子のことで、通常はタンパク質でできている。つまり、「一遺伝子一酵素説」は、一つ一つの遺伝子がそれぞれ別の酵素機能と対応していることを主張している。

【写真】ビードルとタータムジョージ・W・ビードル(左)とエドワード・L・タータム。1958年のノーベル医学・生理学賞受賞時 photo by gettyimages

先のメンデルの例で言えば、エンドウの豆が黄色いという性質は、その対応遺伝子がたとえばある種の色素合成酵素タンパク質の細胞内生産と関係しているなら、うまく説明できる。