2023.01.19

いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」自衛隊の現実について考える

伊藤 博敏 プロフィール

弾を撃つにも上官の許可が

「反撃能力」を保有し、GDP比2%の予算で歴史的転換期を迎えた自衛隊は、戦略的にも装備的にも新たなスタートラインに立ったといっていい。だが、そのためには制度やシステムを実戦向きに整える必要がある。ここから先は自衛隊OBや防衛産業関係者などの「本音」である。

「自衛隊は立派な装備を有し、海外では陸海空軍の扱いを受けているが、実態は『軍隊のように見える警察』に過ぎない。通常、軍隊は国際法・交戦法規が禁じること以外は何でもできるネガティブ・リスト(否定されることが決まっている)型でなくてはならない。しかし本質的に警察である自衛隊は、法令に即して行動するポジティブ・リスト(やれることが決まっている)型だ。これではダイナミックに動く戦場で戦うことなどできない」(自衛隊OB)

確かに戦闘を起こすに際し、実施可能かどうかを法令で判断、弾を撃つのに上官の許可を必要とするようなポジティブ・リスト型では敵にやられてしまうだろう。

有事の際、戦闘を継続できるかどうかの「継戦能力」にも疑問符がつけられている。

「長年、専守防衛を金科玉条としてきたために、攻撃を防ぐことしかできない。つまり継戦能力を持っていない。なのに幼児がかっこいい玩具を欲しがるように、ハイテク正面装備の調達にこだわってきた。攻撃できない弱みを装備でカバーしようとした。でも、戦えないので弾薬や兵站の準備をおろそかにした。砲弾もミサイルも圧倒的に不足している」(別の自衛隊OB)

GettyImages

戦いを前提とした軍隊ではないということだ。それが自衛隊の質を落とし、非戦と武器輸出三原則が防衛産業を弱体化させた。

「防衛庁(07年から防衛省)・自衛隊は、長く『違憲で無駄な存在』と見なされ、社会的に認知されなかったので優秀な人材が不足している。しかも『戦えず、戦わない自衛隊』という矛盾が、事なかれ主義者の出世を許してきた。しかも国家安全保障局(NSC)が設けられて重要な政策立案機能が内閣官房に集中するようになった結果、内局が空洞化している。一方で特殊な『自衛隊仕様』にこだわって武器装備品を製作、武器輸出三原則(2014年から防衛装備移転3原則)に縛られている間に防衛産業は衰退していった」(防衛商社幹部)

 

こうした弱点は防衛省・自衛隊のせいではないものの、「中途半端」に据え置かれたことで、そんな存在となった。

一挙に増えた「予算」と「装備」は猛々しく頼もしいが、反撃・継戦能力を持つということは、「戦わない自衛隊」から「戦う軍隊」に変わったことを意味する。

日米の同盟強化、豪・英・仏・伊・独などの準同盟国との関係を進展させている岸田政権に必要なのは、国会で論議を尽くして自衛隊から「戦えない」要因を取り除き、法的・システム的な環境を整えることだろう。

関連記事