「わが子が不利にならないように」――高学歴親が子どもに与える「転ばぬ先の杖」こそが子どもの未来をダメにする

高学歴親という病(3)前編

ノーベル賞科学者・山中伸弥教授がもっとも信頼する小児脳科学者として知られる、成田奈緒子医師の子育て連載『高学歴親という病』。これまで「子育ての3大リスクは干渉・矛盾・溺愛」だとして、干渉と矛盾の実例を挙げてきた。
今回は、干渉・矛盾のベースとなる「溺愛」について、成田医師が脳科学の最新データにもとづいて分析する。

そこから見えてくるのは、高学歴な親、自分のことを聡明だと思っている親だからこそ抱える、大きな闇だった。

山中伸弥教授と成田奈緒子氏は神戸大学医学部の同級生

「干渉・矛盾」のベースになる「溺愛」

わが子ばかり見てしまう。過剰に愛情をかけてしまう。

それが溺愛のイメージです。

皆さん、わが子に良かれと思って動いています。特に高学歴親は経済的に余裕のある人が多いので「良かれと思ったこと」が実行できてしまいます。

Photo by iStock

一方で、見分けはとても難しいのですが、干渉がなくあふれる愛情がある「甘やかし」は私の中では決してネガティブなものではありません。

溺愛の問題は、それが干渉につながりやすいこと。そして、この干渉を続けていくと、それを正当化するために今言ったことと以前言ったことに矛盾が生まれます。

こうやって、溺愛をベースに干渉、矛盾が乗っかってくる。

つまり子育ての「三大リスク」は連関しているのです。

聡明ゆえに先回りをしてしまう

高学歴親がわが子を溺愛する際の特徴は「聡明な先回り」だと考えます。

皆さん、知識があって頭脳明晰なので、子どもを見ていると「このままではきっと失敗する」といった近い未来に起きることがある程度見通せます。

その「見通し力」が優れるあまり、転ばぬ先の杖を用意してしまいます。

あるお母さんは長い不妊治療の末に女の子を授かりました。30代後半の高齢出産です。このため「目に入れても痛くない」とかわいがりました。

印象的なのが「せっかく授かった大切な子どもなのだから、私が経験したすべての幸せをひとつ残らず同じように経験させたい」と言ったことです。

自分がやってきたピアノなどの習い事、中学受験のための塾など、すべてやらせました。

ところが、娘は夫婦が期待したほど小学校で良い成績を取れませんでした。

ショックを受けたお母さんは、娘が小学3年生になると夜10時、11時まで塾に通わせました。夫婦ともにフルタイムで多忙にもかかわらず、塾への送り迎えなどを手分けして行いました。

「少しやりすぎでは?」と伝えましたが、

「ちゃんと学歴をつけないと幸せになれない。このままでは不幸になってしまう」というのがお母さんの持論でした。

これだと「学歴が低い人は不幸」という論理になります。本人は気づいていませんが、彼女のなかに強い差別意識があるのを感じました。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大