ノーベル賞科学者・山中伸弥教授がもっとも信頼する小児脳科学者として知られる、成田奈緒子医師の子育て連載『高学歴親という病』。これまで「子育ての3大リスクは干渉・矛盾・溺愛」だとして、干渉と矛盾の実例を挙げてきた。
今回は、干渉・矛盾のベースとなる「溺愛」について、成田医師が脳科学の最新データにもとづいて分析する。
そこから見えてくるのは、高学歴な親、自分のことを聡明だと思っている親だからこそ抱える、大きな闇だった。
<【前編】「わが子が不利にならないように」――高学歴親が子どもに与える「転ばぬ先の杖」こそが子どもの未来をダメにする>より引き続き実例紹介。
「育てられたように」育てようとする高学歴親
では、干渉・矛盾・溺愛の三大リスクを抱えるのは、どんな親でしょうか。
ある自治体の支援機関で、ヤスコさんという女性に出会いました。
会社員で役職に就き、輝かしいキャリアを積んでいました。夫も一流企業勤務。私立中学校に通う長女と、同じく私立の小学校に通う次女を育てる、絵に描いたような高学歴夫婦でした。

それなのに中学校に通う長女の暴力に悩んでいました。
気に入らないことがあると暴れ出すため、ヤスコさんも娘に手を上げてしまうと言います。
最も衝撃的だったのは、長女が次女の制服をハサミで切ってしまったことでした。切り刻まれたスカートやブラウス。泣き叫ぶ次女。ヤスコさんは激しい怒りにかられ、長女に暴力をふるってしまいました。
実はヤスコさん自身、妹と2人姉妹で実母との間に深い確執がありました。
長女であるヤスコさんは必要以上に厳しい態度をとられていたのに対し、妹は明らかに贔屓されていました。
感情の起伏が激しい母親の矛先はヤスコさんに向かっていました。
母親の機嫌を損ねないよう気を遣う長女に対し、次女である妹は何をしても許されるのです。母親からの愛情が感じられず、辛い子ども時代を送っていました。
「すごくしんどかった。だから、私は正しい子育てをしようってずっと思っていました。自分と妹が育てられたような育て方をしてはいけない。私はちゃんとした子育てをするんだ。そう思いました」
実母を反面教師にしてきたはずなのに、結局おまえは同じ子育てをしていたではないか――切られて布の山になった制服が、ヤスコさんがやってきたことを全否定しているかのようでした。