2022年秋、大阪にユニークな福祉施設が誕生した。LGBTQ当事者や仲間たちが集う「プライドセンター大阪」の中にある、難病や精神障害を抱えた人たちのための事業所だ。
LGBTQコミュニティの「ど真ん中」に福祉施設を併設させるという日本では前例のない取り組みを始めたのは、長年精神科のソーシャルワーカーとして働いてきた桂木祥子さんだ。NPO法人QWRCの理事をつとめ、自身も、性別に関わりなく人を好きになるバイセクシュアルであることを公表している。なぜ、このような福祉施設を作ろうと思ったのか。
2003年からLGBTQや多様な性を生きる人々を支える活動を続け、今回その施設を作った桂木さんはティファニーが協賛するフィッシュ・ファミリー財団の「チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞」に入賞した。LGBTQ支援に同じく関わっているライターの遠藤まめたさんが桂木さんにインタビュー、その経緯を伺った。

精神科でも話せないLGBTQの話題
桂木さんにより昨年開設された「にじむすび」は、難病や精神障害などを持つ人たちに向けた福祉サービスを調整している事業所だ。持病を持ちながら仕事を探していたり、ヘルパーを探したり、家を失いかけていたり、さまざまな人が支援の対象となっている。LGBTQ当事者や仲間たちが集う「プライドセンター大阪」内にあるけれど、対象者をLGBTQ当事者に限定しているわけでもない。

「当事者限定と掲げてしまったら、そこにいくことがカミングアウトになると思って、かえって支援に繋がりにくくなってしまう人もいる」と桂木さんは言う。
プライドセンターの中に施設を作った理由の一つは、福祉施設に日常的に出入りしている同業者の人たちがLGBTQコミュニティと接する機会がもてるようにするためだ。
「ドアを開けたら(性の多様性をあらわす)レインボーフラッグが飾られている。他の事業所からやってきた人に、LGBTQ当事者や支援者が集まるセンターがあるんだということを知ってもらえる。それが、プライドセンターの中に作った理由の一つです」(桂木さん)
そしてプライドセンターの中に作った理由のもう一つは、困りごとを抱えていても既存の福祉施設に相談しづらいと感じているLGBTQ当事者の人が、本当の自分を隠さずに福祉サービスを受けられるようにという願いがある。