長年精神科のソーシャルワーカーとして働いてきた桂木祥子さんは、2022年秋、LGBTQ当事者や仲間たちが集う「プライドセンター大阪」の中に、難病や精神障害を抱えた人たちのための事業所を作った。

その経緯をライターの遠藤まめたさんが伝える前編「「精神科でもゲイと言えない」LGBTQの人が利用しやすい難病・精神障害ケアとは」では、精神科に通ってもゲイであることを言えないような状況が全国にあることをお伝えした。全国各地に誰もが安心して通える福祉施設があることはとても重要だ。しかし何かを隠さなければならないという気持ちを抱えて通う人もいる。

後編では、どうしたら誰もが安心して福祉施設に通えるようになるのか。ソーシャルワーカーとして桂木さんがご覧になってきたことをお届けする。

 

「フルネームではなく番号で」小さな工夫を

障害や難病を持つLGBTQ当事者たちの生活を助けるにはどうしたらいいのか。
桂木さんが例にあげるのは、医療機関での待合室での呼び出しだ。施設によっては番号で呼び出しているが、まだまだフルネームで呼び出しを行っている場合もある。

出生時に割り当てられた性別とは異なる性別で生活している人にとっては、このような呼び出しは脅威になることがある。法律上の名前を変更するためには家庭裁判所での審査が必要で、希望者全員ができることではない。

外見が男性なのに、女性的な名前で呼び出されるなどの出来事によって「あの人は男?女?」などと周囲から奇異な目で見られたり、ヒソヒソ話をされたりするのは、具合が悪くて受診をしているときにはなおさら耐え難い。トランスジェンダーの当事者は、しばしば近所の人のいない遠い病院を選んで受診したり、症状が悪化するまで受診を控えるが、背景にはこのような事情がある。

ある人がLGBTQであることを本人の同意なく第三者に暴露することは「アウティング」と言う。アウティングは一橋大学大学院で、ゲイであることを暴露された若者が死亡した事件をきっかけに、人権侵害の一種として近年では世間にも広く知られるようになった。しかし待合室などでの呼び出しが、その人がトランスジェンダーであることを結果的に周囲に知らしめてしまう危険性については、まだ広く知られていない。

病院の受付がアウティングにつながるケースが…Photo by iStock

病院で通称名を使えたり、呼び出しの際に番号を使えたりすることは、医療を受けられる人を増やすことにつながる。ちょっとしたことに見えるかもしれないが、実際には大きな違いなのだ。