「その1点を削り出せ」と常々自分に言い聞かせてきた。合否を分けるのは常に1点なのだ。この1点が当落を分けるというマインドで、目を皿のようにして見直さねばならない。
はじめに立ち返って確かめ算をしていく。私は問題用紙だけに集中していた。答えはすべて問題用紙に記されているからだ。それらが無事に完了しても、手元の時計で5分を切る時間がまだ残っている。そこで私は何気なくマークシートに目を落とした。
「なんだ、これ?」
最初は自分が見ているものが理解できなかった。問題用紙を見れば最後の答えの番号が54番だと分かる。だが、私のマークは53番で終わっている。

1つずつずれてマークしていると気づくのに10秒くらいかかった。正直に言えば、私の頭はその答えを拒否していたのだ。問題用紙上の答えがいかに正しかろうと、それがマークシートに正確に転記されなければ零点である。こんな致命的なケアレスミスは模試でもやらかしてない。
終わった……。頭が真っ白になる……。胃の奥から何かがきゅいーんとせりあがってくる感覚。お尻のあたりがぞわっとするあの感覚。そのとき私はパニックの一歩手前にいた。
だが、私はそこで親指で中指の脇をなでたのだ。反射的に。
この1年間の時間をほとんどこのためだけに費やしてきた。行きたい映画も、読みたい漫画も、なんなら恋愛も青春も我慢して私はこのためにだけに時間を使ってきた。何度も読みこんだ参考書を身体に叩きこむために、ひたすらに手を動かしてきたじゃないか。ボールペンを握り、ノートに文字を綴り続けてきた私の中指の脇には、大きなペンだこができている。パンパンに腫れたこのペンだこは、私の身体に蓄積された努力の量の証なのだ。身体が覚えている。どれだけ頭脳への回線がショート直前になっても、私の身体は絶対に私の信頼を裏切らない。
しゅーっと音を立てて、沸点の直前まで来ていた私の大脳が沈下していく。