自分自身への揺るぎない自信

おそらくどこかで誤って同じ番号に2つのマークを重複して塗りつぶしているはずだ。だが、いまそれを探している時間はない。それよりも消しゴムでマークを全部消して、まっさらにして塗り直すほうが早いだろう。だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶだからと自分に言い聞かせる。

Fの柔らかい鉛筆は大胆な消しゴムの往復がけでするすると消えていった。あとは問題用紙の数字を読み取って「3,5,1,2,5」と5つずつマークしていく。今度こそ間違えないように確認しながら、慎重にだが迅速に。

Fの鉛筆はいい具合に丸まっている。楕円の淵をなぞってから中を一往復。いちにっ、いちにっ。だが、最後の大問1問を残して私の腕時計の長針は無情にも試験終了時刻と重なった。結局、大問1問を落としたのと同じ……。苦い絶望感がせりあがる。

 

いやちょっと待って、試験監督からはまだ終了の合図がない。あっ、そうだ、念のため時計の針をわずかに進めていたのだっけ。時間がある限り、手を止めちゃいけない。「あきらめたらそこでら試合終了ですよ」というのはスラムダンクの安西先生の名台詞だった。この受験が終わったら全巻を一気読みする贅沢を味わいたい。

最後の54番にマークをしたのと、「やめっ」という試験監督の号令とはほぼ同時だった。興奮と安堵が同じくらいの勢いで込み上げて、目頭がジーンとなる。でも、一番大きいのは、自分への強い信頼、そしてそれに応えた自分に対する新たな誇りだ。

試験本番では思ってもないことが起こったりする。パニックに陥るか、冷静にリカバーできるか、紙一重のこの分かれ道を決めるのは自分自身への揺るぎない信頼だけだ。そしてそれは自分との約束を守り続けることでしか培われない。

今日あなたはこれだけ勉強すると誓い、スマホを通して押し寄せてくる誘惑と戦った。そういう毎日の繰り返しをあなたの身体は絶対に忘れないのだ。あともう一息、自分を信じて頑張ってほしい。

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