前代未聞の「完コピ稽古」

2006年に生まれた、木ノ下歌舞伎という団体がある。歴史的な文脈を踏まえつつ、大切にしながら、現代における歌舞伎演目上演の可能性を発信するという目的で、当時20歳だった木ノ下裕一さんが京都で旗揚げした。木ノ下さんが、主宰者として指針を示しながら、これまでさまざまな演出家の作品を上演してきた。

今年上演される演目は、鶴屋南北の「桜姫東文章」。鎌倉の若い僧侶・自久和尚と稚児・白菊が心中を図ることから物語は始まる。心中に怖気付いた僧侶は生き残るが、心中から17年が経ち、白菊は転生して桜姫となる。自久和尚は高僧・清玄となっていたが、目の前に現れた桜姫が犯した罪を引き受けることで、清玄もまた破戒堕落の道を歩む。石橋さんは、今回挑戦する木ノ下歌舞伎で、この“桜姫”を演じることに。石橋静河さんインタビュー第3弾は、稽古でわかった、歌舞伎役者の持つ特殊な身体性の話。

主宰者である木ノ下さんは、歌舞伎の基礎知識をはじめとして、作品全般の監修に関わるが、上演台本と演出を担当するのは劇団チェルフィッチュ主宰の岡田利規さん。視点の違う2人のクリエイターが立ち会う稽古場で、石橋さんはまた新たな刺激を受けていた。

「稽古の時間が2つにわかれていて、岡田さんの時間は今のところ(※取材は12月)ワークショップと本読みです。木ノ下さんからは、まず“すり足”のやり方から教えていただいて、それがある程度マスターできたら、次は『完コピ稽古』というのをやるんです。木ノ下歌舞伎では毎回必ずされているようで、最初にみんなで約4時間、(坂東)玉三郎さんが演じられた桜姫の映像を観たら、今度は見様見真似でそっくり完コピするんです。しかも、型を一つも間違えずにコピーするならわかるんですが、舞台上で起こったことを全部真似してみる。私にとっては、そのやり方があまりにも新鮮で。最初はちょっと戸惑ってしまいましたが、やってみたら、『そうか、こういう感じか!』と膝を打つことが何度もありました。私が、あの素晴らしく美しい玉三郎さんの動きをコピーなんてできるわけがないんですけど、それでも本物をじっくり観察して、自分の体に移していくことは、すごく勉強になります」

 

歌舞伎の優雅さは、繊細で具体的な動きの積み重ね

昨年の夏に沖縄まで琉球舞踊を習いに行ったことも、今回の稽古ではずいぶん役に立った。日本舞踊も琉球舞踊も、「重心を下げる」ところは同じ。大きな動きではなく、さりげない動きの中で感情を表現するところも共通している気がしたという。