『にこたま』そして『1122(いいふうふ)』で、現代に生きる夫婦のあり方を問い続け、多くの支持を受けて来た渡辺ペコさん。最新作『恋じゃねえから』(モーニング・ツーWEBにて連載中)もまた、今私たちが生きる日々と直結する「創作と性加害をめぐる問題作」(帯より)だ。
14歳の時に塾講師の今井と「恋」をした紫と、側でそれを見ていた友人の茜。26年後に彫刻家となった今井が生み出した、裸の紫をモデルとした「少女像」をきっかけに、紫と茜は共に過去と向き合うことを決意するーー。
最新2巻が発売されたのを記念して、渡辺ペコさんと、漫画家のよしながふみさんの対談を敢行。よしながさんが本作同様「シスターフッド」について『環と周』(『ココハナ』で連載中)で描いたことから、友情について、誰かを大切に思う気持ちについて掘り下げるとともに、「創作」という行為のはらむ「恐ろしさ」について、さらにそれぞれの創作方法の違いも語られる。創作者として活躍し続ける2人ならではの濃密な対話をお届けする。

取材・文 門倉紫麻
1話目を描く時、よしながさんの言葉が頭にあった
――お2人とも、お互いの作品を愛読していらしたそうですね。
渡辺ペコ(以下、渡辺):ずっと拝読してきました。
よしながふみ(以下、よしなが):私もです。『にこたま』も『1122』も好きなんですが、この2作はテーマが対のようになっていますよね。でも今回の『恋じゃねえから』はまた違う感じなのかなと。
渡辺:そうですね。『恋じゃねえから』の1話目を描く時は、よしながさんが以前、対談集『あのひととここだけのおしゃべり』の中でお話しされていたことが頭にあったんです。自分がされた嫌なこととかひどいことよりも、自分がしてしまったことのほうがきついと感じる、という主旨のことを。覚えていらっしゃいますか?
よしなが:覚えています。へこみますね、そっちのほうが。
渡辺:年を取ってきてふとその言葉を思い出したら、私にもその感覚があるかもしれない、と。してしまったことは、覚えていないつもりでいても、本当は一部始終を知っているということだよな、と。そう考えながら1話目を描きました。
よしなが:茜が「助けて」のサインに応えなかった、というところですよね。
――「先生」との関係に悩む紫が、茜と2人で決めていた「助けて」のサインを出したのに、茜はそれを見て見ぬふりをしてしまいます。

――よしながさんは、このシーンをどんなふうに読まれましたか。
よしなが:どうだろう……当人たちが気にするのも分かるんです。でも思春期に限らず、誰でもしんどそうな人を見て、自分も大変な時だったからスルーした、みたいなことに覚えがあると思うんですよね。助けてもらえなかった紫のほうも、茜も大変だったんだろう、と言っていましたし。どちらの立場も、経験することだとは思います。