静岡県川勝知事をJR東海・葛西敬之が、ズケズケと批判してクギを刺した日
リニア問題の「対立の芽」「葛西敬之?そんなたいして有名でもない企業経営者が、日本を牛耳ってたなんて、そんなわけないだろう」
本書を読む前は、多くの人がそう思うようだ。森功著『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、一企業経営者にすぎない葛西氏が、官邸の人事を牛耳り、霞が関と内通して政策に口を出し、はてはNHKの会長選びに介入してマスコミを支配する姿までが描かれる。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第12回(4)
「美しい国」も葛西の言葉だった
今に始まったことではないが、ときの政権はこうした第三者の有識者会議の意見をお墨付きにして政策を打ち出す。
第一次安倍政権では「美しい国づくり」を政策の根っこに掲げてきたが、それは葛西のしばしば用いる表現でもあった。
ちなみにこの教育再生会議には、のちにリニア新幹線問題で対立する静岡県知事の川勝平太も委員に加わり、賛同している。12月21日の第4回会合で川勝は言った。
「伝統を継承して新しい文化を創造する。その新しい文化を現時点で受けとめるならば、これは『美しい国づくり』に尽きているかと存じます。そこにどのようにわれわれの教育再生の理念を落とし込んでいくか、ということだと思うわけであります」
今ではリニア反対の急先鋒のように見られ、選挙になると市民活動家から支援を受ける静岡県知事だが、この頃はむしろ安倍政権の教育政策をバックアップしていた。教育再生会議ではもっぱら葛西の唱える教師重視について賛意を示している。
「『社会総がかり』が一番の基礎である。そしてその次に大切なのは、何といっても教師であります。したがって、3番目に『恩師に出会える学校』とありますが、これが2番目に来るべきであると存じます。いかなる教育も優れた教師に出会わない限り、これは教育の任務を果たすことができません」
あたかも保守、タカ派の論客のようだ。こうも述べている。
「ゆとり教育の見直しというのも、誰が教えるか、教える中身は何か、そのようなことと併せて、日本がこれまでのいわば明治維新以来の強い国づくり、それに応じた欧米の学問というものから、地についた日本発の学問というものをしていく。それが地域おこしになり、国おこしになり、そしてそれが欧米社会から学者や学生さんたちを集める。すなわち国際力を持つ国になるのであろう。そういう流れの中で、この第一次報告案を、若干の物語性といいますか、起承転結をつけて組みかえられれば、我々の言うことが十分に反映されるのではないかと思っております」