映画『ヒトラーのための虐殺会議』の公開で哲学者ハンナ・アレントがあらためて注目されている。
ユダヤ人大量虐殺政策を淡々と議決する戦慄のさまこそ、アレントが「全体主義」と名づけ、生涯をかけて対決した人間破壊の現象だからだ。
「全体主義」とは何なのか。アレントはいかに対決したのか。
アレントの思想のエッセンスがまとめられた入門書、現代新書100(ハンドレッド)『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』から見てみよう。
(本記事は『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』から抜粋したものです)
人間がしてはならないこと
「これは決して起きてはならないことだった」
これがナチスによるユダヤ人の大量虐殺のニュースをはじめて聞いたときのハンナ・アレントの感想だった。
大量の人間が身にまとうもの一切を剥ぎ取られて殺される。まるで死体製造工場のように、生きるに値するかどうかで人間が選別されてガス室に送られ、つくりだされた死体は焼却され解体されて処分される。一切の人間的な痕跡がそこでは抹消されている。
そもそもこのようなことを人間はしてはならないはずだった。
どうしてそのようなことが起こってしまったのか。あのようなことが起きてしまった後で、われわれは人間としてどのように生きて行けばよいのだろうか。