米シンクタンクの報告書を読み解くと…
韓国の核武装問題が急速に動いている。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が政府の会議で核武装を検討する発言をしたかと思うと、米国の有力シンクタンクは「米国は韓国に核兵器を再配備する準備を始めるべきだ」と提言した。日本の岸田文雄政権は大丈夫か。
私は先週1月20日公開のコラムで、尹大統領が1月11日、核武装の可能性に言及した発言を紹介した。この発言について、日本のマスコミはなぜか、ほとんど無視してしまったが、韓国内では大きな議論を呼んでいる。米国でも、直ちに報道された。
すると、今度は米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が19日、米軍の核の韓国再配備を訴える報告書を発表した。尹大統領発言の直後というタイミングだ。時間からみて、大統領発言の前から準備していたのは間違いないが、米国の「抜かりのなさ」をうかがわせる。彼らはいったい、何を提言したのか。

報告書は全部で30ページ。CSISのジョン・ヘイムリ所長とハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が共同議長として全体をとりまとめた。要点を紹介すると、次のようだ。
〈韓国との政策協議では、核と通常兵器の両方に使える戦略的資産(注・爆撃機など)の活用や朝鮮半島に対する米国の戦術核兵器の再配備、北大西洋条約機構(NATO)のような核共有(シェアリング)の導入といった韓国の脆弱性を克服する方策が焦点になる〉
〈現在の情勢下では、同盟国は米国の戦術核を朝鮮半島に再配備すべきではないし、韓国の核保有を認めるべきでもない。こうした議論は、米国の拡大抑止に対する韓国内の疑念から生じている。これらは、別の方策によって対応可能だ〉
ここで「再配備すべきではない」と言っているのは、あくまで「現在の情勢下では」という条件付きだ。言ってみれば、建前を書いた注釈のようなものであり、本当に訴えたかったのは、ここではない。提言の本論部分では、次のように書いている。
〈米国の拡大抑止政策は「抑止と核の不拡散」という2つの目的に合致し、韓国民や他国の国民が米国に疑念を抱かせるような心理的、物理的な条件を認識していなければならない。たとえば、抑止に進めるためだからといって、核不拡散を犠牲にしてはならない〉
〈米国がどうやって核抑止政策に対する(注・韓国や他国の)信頼を構築するか、という心理的な問題が議論の出発点になる。そのために、次の6つが必要だ。広報と共同の計画立案・実行、日米韓3極の対話と作戦、米軍の調整、米軍の戦術核を将来、再配備する可能性に備えた準備の枠組み作り、中国との調整である〉
5番目にあるように、報告書は慎重な書きぶりながら「戦術核の再配備」を提言している。それだけではない。続けて、こう書いている。
先に見たように、前段で「NATOのような核共有導入といった方策が焦点になる」と書いている。米軍の核再配備は単に「米軍の核を持ち込む」という話にとどまらず、米韓、さらには日本も加えた3国による「核共有」に発展する可能性を見据えているのだ。
さらに、こうも書いている。
多国間の核による拡大抑止とは、事実上「NATOの太平洋への拡大」に匹敵するような大胆な提案だ。日本については「核アレルギーが強いが、米国に対する疑念は韓国と共有しているだろう。それなら韓国と足並みを揃えたらどうか」と言っている。