避妊に失敗した時や性暴力被害にあったとき、なるべく早く、遅くとも72時間以内に服用することで高い確率で妊娠を防げる薬がある。通称アフターピル、緊急避妊薬だ。世界では90ヵ国以上で、処方箋の必要なく数百円~数千円という値段で薬局で入手できる。一方、日本では薬局販売(OTC化)は認められておらず、購入額も6000円から2万円ほどと高額だ。
ずっと求められているOTC化は、なぜここまで日本では進まないのだろうか。

政府は2021年6月、市民からの要望申請を受け議論を再開し、現在パブリックコメントの募集が始まっている。望まぬ妊娠を防ぐのみならず、世界で大切な権利として認められているものが、なぜ日本は認められていないのか。長く世界の事情も含めこの問題に携わってきた福田和子さんが日本の現状を改めてお伝えする。前編では、無料にした国もある中で、日本における緊急避妊薬の現状をお伝えする。

 

「もし妊娠していたら、産める状況に私はあるの?」

「妊娠したかもしれない、やばい」
その不安がよぎった瞬間から、頭の中は、妊娠不安に占領される。

「大丈夫だよね、まさかね」
「いや、でも、もし妊娠してたら?産む?産める状況?」
「私のこれから、どうなるの?」
生理が来るその日まで、堂々巡り。

トイレに行くたびにドキドキし、カラカラのままの下着にため息をつく。トイレでは1人になるから、余計にどんよりした不安が際限なく胸に広がる。

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そんな思いをするのは、決して稀なことではない。むしろセックスの度に毎回どこかで感じている不安、という方が正しいと思う。だって確実な避妊などないのだから。

コンドームの失敗率は18%。実際に、私たちが行った調査でも、緊急避妊薬を求める一番ポピュラーな理由は「コンドームの破損、失敗」で約7割。また、避妊に明らかには失敗していなくても、(膣に入れた指、精子ついてたかな?)(コンドーム、手間取ってたけど膣側に精液着いてないよね?)(今月、そういえばピル飲む時間結構不規則だったな……)目に見えない部分で不安が無尽蔵に湧き上がる。だから、苦しい。

ちなみにコンドームは感染予防対策として有効だが、避妊法としては上記の理由もあり、単体では不十分だ。だから、特に海外では一般的に低用量ピルの服用などコンドームを組み合わせることが推奨されている。

避妊法の種類と、確率の安全性の図。コンドームはともに避妊としての確率が低いが、日本ではそれが主流の現実がある illustration/iStock