本屋大賞とは「全国書店員が選んだ一番売りたい本」を表彰するもの。第1回の『博士の愛した数式』に始まり、2023年で20回目を迎え、1月20日ノミネート10作が発表された。大賞発表は4月12日を予定している。
20回分の受賞作に、それぞれ10冊ずつのノミネート作がある本屋大賞。過去に本屋大賞を受賞しながら、今回もノミネートされているのが凪良ゆうさんと町田そのこさんだ。
凪良さんは2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞、今回ノミネートされたのは『汝、星のごとく』。本作は直木賞候補にもなった。
町田さんは2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞、今回ノミネートされたのは『宙ごはん』。どちらの作品にも「長いスパンで成長していく人間の物語」という共通点がある。
本屋大賞への再度のノミネートを記念して、20226月にオンラインで実施、同年小説現代9月号に掲載されたお二人の対談をお送りする。前編では凪良さんが町田さんの、町田さんが凪良さんの作品を解説!そしてふたりの小説の書き方とは……。

京都府在住。2006年にBL作品にてデビューし、代表作「美しい彼」シリーズ(徳間書店)など作品多数。2017年非BL作品である『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。2019年に『流浪の月』(東京創元社)を刊行し、翌年、同作で本屋大賞を受賞した。さらに、2021年『滅びの前のシャングリラ』(中央公論新社)で2年連続本屋大賞ノミネート。他の著書に、『すみれ荘ファミリア』『わたしの美しい庭』などがある。

福岡県在住。2016年「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。選考委員の三浦しをん氏、辻村深月氏から絶賛を受ける。翌年、同作を含むデビュー作『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(新潮社)を刊行。2021年『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)で本屋大賞を受賞。他の著書に、『ぎょらん』『うつくしが丘の不幸の家』『コンビニ兄弟 ―テンダネス門司港こがね村店―』『星を掬う』などがある。
帯コメントから始まった交流
──まずは、お二人の交流についてお聞かせください。
町田 『52ヘルツのクジラたち』の帯に、推薦コメントをご依頼したのが最初です。『流浪の月』を読んで一気に凪良さんの紡ぐ世界に引き込まれ、憧れていました。そのとき、担当編集者さんに「凪良さんに推薦コメントをいただきませんか」と言われて、まさかそんな奇跡は起こらないと思いつつダメ元で頼んでみたら、本当に書いてくださったんです。もう夢みたいでしたね。その作品が翌年、本屋大賞に選ばれて……私にとって凪良さんは恩人です。

凪良 言いすぎです(笑)。
──凪良さんが町田さんの作品を初めて読んだのはそのときですか?
凪良 私は『うつくしが丘の不幸の家』が最初です。実は町田さんと東京創元社の担当編集者さんが同じ方で、お話をよく伺っていました。実際に読んでみたら素晴らしくて、正直嫉妬しつつ……だから帯のコメントのお話をいただいたときは、もう二つ返事で「やります!」とお伝えしました。

──その後、お二人がお話しされる機会はあったんでしょうか。
町田 私が「凪良さんとお話ししたい!」とずっと言っていたので、私と凪良さんとお互いの担当編集者さんも合わせた4人で、オンライン飲み会を企画してもらえました。その日はちょうど凪良さんのお誕生日だったので、嬉しいやら緊張するやらで、会が始まった瞬間から酔っぱらってしまっていましたね(笑)。
凪良 凄かったです。もちろんいい意味で(笑)。開始5分ぐらいで町田さんが酔っ払っていて……私も初めてお話しするので緊張していたのですが、今日は気を使ったりしなくていい会だ! と最後はみんな酩酊していましたね。とても初めてとは思えないほど打ち解けました。
本が出るまでの不安と期待
──最新作を書き上げられた(編集部注:この対談は2022年6月に行われた)いまの心境はいかがでしょうか。
凪良 刊行1ヵ月前なんて、もうナーバスでメンタルはボロボロですよ。夜は寝られないわ、胃は痛いわ、ツイッターで泣き言を書きそうになるわ。さっきは本当に書いたけど消しちゃった。町田さんもこの気持ちわかりますか?
町田 とてもわかります! 発売前に読まれた書店員さんから感想などをいただくと、その瞬間はマシになりますけど、それでも不安は尽きません。本が出るまではずっと胃が痛いです。でも凪良さんは大丈夫ですよ! 今作を読ませていただいた私が保証します。

凪良 でも、町田さんもそう言われても、「いやダメ、大丈夫じゃない」となりません?
町田 まあそうなんですけど……(笑)。ただ私は凪良さんに褒めていただいたら、大丈夫と思えるかもしれない。私の言霊にそこまでの力はないですが、凪良さんの不安が少しでも減ってくれたらいいなと思って、今作の素晴らしさを私が何度でも保証します。
──今作は、「凪良さんの集大成だ」という声もあります。
凪良 不安でしょうがない日々を過ごしていると言った手前、「集大成」とか偉そうなことは口が裂けても言えないですね(笑)。もう何年か経った後に「もしかしたらあれが集大成だったかもしれない」と言えるかもしれませんが、そんな日が来るんだろうか。
町田 凪良さんの最新作を読むたびに「これが一番好き!」と思うんです。集大成や最高傑作が更新されて、次回作でもその言葉が使われるんじゃないでしょうか。