異常な口座の記録
JA職員が課せられたノルマは、保険の契約だけにとどまらない。JAバンクの口座新設や貯金の獲得にもノルマがあるようだ。実際、康子さんのJAバンク口座が、JA職員の手によって悪用されていたと思われる痕跡がいくつも見つかった。
一つは、康子さんの定期積立口座の解約と新規契約が'07〜'18年の間で計44件と異常な数にのぼったこと。最短では2ヵ月で解約している。

康子さんには、短期間で積立預金を解約する理由はおろか、そもそも高齢のため一人で店舗を訪れる体力もない。自宅から最寄りのJAの店舗までは1km以上。自動車や自転車には乗れない。おまけに外出ができないほど足腰は衰え、白内障と緑内障を併発してから長い。それなのに、康子さんは一連の手続きを店舗でしたことになっているのだ。
さらに不可解なのは、定期積立口座の解約日と開設日が同じであることだ。おまけに毎月の積立金の設定が奇妙である。7万円にしていた口座を解約すると、今度は2万円と5万円で2つの口座を作る。続いてこれらの口座を解約し、7万円の口座を1つ新設する。この繰り返しだ。
新開さんの父は、
「母のノートには通帳と印鑑をJA職員に預けていたと記されている」
と語る。
さらにJAが開示した別口座の入出金の履歴をたどると、定期積金口座と普通貯金から毎回3万〜15万円の現金が合計27件も窓口で引き出されていた。現金が引き出された記録がある時間帯の一部については、康子さんは別の場所にいたことが、彼女の日記からわかっている。JA職員が直接横領した証拠はないものの、誰が何のために引き出したのか不明だ。
新開さん父子は「普通では考えられないことだらけ」と驚きを隠せない。
後編記事『【支払い総額3146万円】99歳の女性を狙った「JA農協の不正疑惑」の手口がヤバすぎる』につづく。
『週刊現代』2023年2月4日号より