「ある」と考えなければ説明できない。でも、証拠はどこにもない―。何千年もの間、人は霊魂や死後の世界を「信仰の問題」だと考えてきた。だがついに、科学の力がその核心に近づきつつある。
「目が見えない」のに事故直後の自分を「見た」
命を失った自分の肉体が、はるか下に見える。人生で出会った人々、見てきた風景が早回しで駆け抜けてゆく。暗いトンネルを抜け、光に包まれると、そこには美しい緑と青い空が広がる……。
「死後の世界」を垣間見て息を吹き返した人々はしばしば、こうした体験を語る。だがそれは、死にかけの脳が見せる幻覚にすぎない。死後の世界など、あるわけがない。そう一笑に付すのが世の中の「一般常識」だ。
では、次のような例はどう考えるべきだろうか。
大破したバンと、路上に投げ出された若い女性。割れた頭から血が流れ、脚はあらぬ方向に曲がっている。救急隊が服を切り裂いて救命措置を施し、担架に載せた。力なく垂れ下がった彼女の左手にきらめく結婚指輪……。

米国シアトルで'73年春に発生した、ある自動車事故。一命を取り留めた女性が後に「事故直後に上空から見た」と語った光景だ。生死の境をさまよった人が、瀕死の自分を見下ろしている。まさに臨死体験の典型例で、これだけなら「不思議な話」で終わりである。
問題は、彼女が生まれつき「全盲」だったということだ。