小児科の医師の成田奈緒子さんは、神戸大学医学部の同級生だという山中伸弥教授が最も信用する研究者のひとりだ。ふたりの共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』では、おふたりの「育ってきた環境」も明らかにしながら、「レジリエンス=乗り越える力」が現代にとても大切であることも訴えていた。

神戸大学医学部の同級生だった山中伸弥教授と成田奈緒子さん 写真提供/成田奈緒子

そんな成田さんの最新刊『高学歴親という病』は、「レジリエンス」を育てるために、時に障壁となってしまうこともある「親の病」について綴った書籍だ。特に高学歴の親が「子どものため」にと起こす行動が与える深刻な影響を伝えている。本書より何回かにわたり抜粋掲載する第3回は、高学歴偏重に加え「子どものために」と考える「習い事」で起こった問題についてお伝えする。
前編では3歳の頃から週6で習い事をしていたあるお子さんの例をお伝えする。

 

週6回の習い事をしたタケシ君のケース

タケシ君は、研究職のお父さん、医療系専門職のお母さんとの間に生まれたひとりっ子です。2歳から幼児体操教室、3歳から幼児学習とピアノ、それに英会話のクラスに通わせると、どこでも楽しそうに活動しており、先生にも「能力がある」と褒められました。本人も嫌がらないし両親も期待していたので、せっせと送り迎えをしながら、週6回の習い事に通わせました。

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1歳から入っている保育園ではじっとしていないことが多かったものの、もともと自由な雰囲気の園だったので特に目立つことはありませんでした。むしろ、他の子どもたちより知識が多いぶんボス的な存在だったといいます。ところが小学校に入ったとたん様子が一変します。

低学年の頃から授業中でも教室を歩き回ったり、クラスの友達に手をあげる、宿題をしてこない、しょっちゅう忘れ物をするといったことがよく担任から報告されるようになりました。担任から「ご家庭でしっかり見てあげてください」と言われて両親は悩み、できるだけのかかわりをしようと決心しました。

そして、小学4年生になるまでには、家で管理できる部分については、お母さんがかなり厳しく働きかけるようになっていました。もともと父母とも「小学校から大学まで、勉強で苦労したことがない」という人たちだったので、タケシ君の学校での様子には本当に戸惑ったようですが、「できないなら私たちが管理するしかない」と思ったそうです。