脳には育つ順番がある

人間が生きてゆく機能の大部分は、脳が担っています。ですから子育てイコール「脳育て」と表現していいくらいです。脳を正しく育て直せたからこそ、タケシ君は変われたのです。首がすわる前に言葉を話す子がいないように、脳の発達には段階があります。したがって、この脳育てにも守られるべき順番があります。

子どもが生まれてから5歳くらいまでに、まず「からだの脳」を育てなくてはなりません。寝る、起きる、食べる、からだをうまく動かすことをつかさどる脳です。これは主に、内臓の働きや自律機能の調節を行う視床下部などの間脳や脳幹部を含む部位を指します。

生まれたときは寝たきりで、昼夜関係なく泣いておっぱいやミルクをねだります。徐々に夜起きずにまとめて眠ってくれます。首がすわり、寝返りを打ち、お座りをしてハイハイができるようになります。そのうち、朝家族とともに目覚め、夜になったら眠り、食事を3回とり、喜怒哀楽を表現し始めます。要するに、人が生まれてから最初に始まるからだと脳の発達です。

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このからだの脳が育つ時期を追いかけるように1歳から「おりこうさんの脳」の育ちが始まります。主に、言語機能や思考、スポーツの技術的なもの(微細運動)を担う大脳新皮質のことです。小中学校での学習を中心にぐんと発達しますが、当然ながら個人差があります。おおむね18歳くらいまで時間をかけて育ちます。

最後に10歳から18歳までにかけて育つのが「こころの脳」です。大脳新皮質のなかでも最も高度な働きを持つ前頭葉を用いて、人間的な論理的思考を行う問題解決能力を指します。

このように3段階で脳は育つのですが、多くの親たちが「からだの脳」を育てずに、「おりこうさんの脳」と「こころの脳」の機能を求めています。それが、高学歴親が子育てでつまずく大きな要因です。タケシ君もそうでした。

タケシ君の脳育ての失敗の原因は、幼児期に「からだの脳」を育てることを軽視したことにあります。フルタイムで働きながら複数の幼児教室に通わせるために、お母さんはいつも時間に追われていました。タケシ君が3~5歳ごろの夕食は20時過ぎが普通で、それからお風呂、一休みして布団に入るのは早くて22時、時には23時になっていたそうです。「おりこうさんの脳」が育つのに反して、「からだの脳」はしっかり育っていないアンバランスな状態になっていたのです。

技能が上達する「おりこんさんの脳」だけが育ち、「からだの脳」が育っていないとアンバランスになってしまう Photo by iStock

子どもは、親の言動を見て育ちます。早寝早起き朝ごはんを大事にしている。それを実現すべく頑張ろうとしている親かどうか、ともに生活するなかで価値観が刷り込まれていきます。
物事のとらえかた、発する言葉の内容、子どもに見せる表情、子どもとの遊びかたひとつとっても、子どもへの影響ははかりしれません。

習い事よりも大切なことはなにか。どんな影響が起こるのか。それは後編「高学歴偏重親に小児脳科学者が訴えたい「子ども時代に習い事よりも大切なこと」」にて詳しく説明します。

高学歴親という病
高学歴な親はなぜ子育てに失敗するのか? 高学歴家庭に「引きこもり」が多いのはなぜなのか?山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』がベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師が具体的事例から「傾向と対策」を見つけ、高学歴親のための「育児メソッド」を提供する。
後編「高学歴偏重親に小児脳科学者が訴えたい「子ども時代に習い事よりも大切なこと」」はこちら