2015年に採択された、「SDGs」。17の目標と169のターゲットから構成され、気候変動や環境汚染、人権問題などの環境・社会課題の解決が急務となっている。企業レベルではもはや“取り組むのが当たり前”ともなっているが、いち個人としてはどのような姿勢で受け入れ、日常の消費活動に活かせばいいか、いまだに自分ゴトとして咀嚼できていない、という人も少なくない。
そこで今回お話をお伺いしたのは、クリエイティブディレクターでライフスタイリストの大田由香梨さんだ。「服はブランド指名で買うのが当たり前」とされ、いわゆる“モノ消費”が活発に行われていた2000年代後半、大田さんは「食」「住」も「衣」の延長線上にあると感じ、ライフスタイリストとして商品を通して得られる豊かさに焦点を当て、消費活動のこれからのあり方を早くから発信してきた人だ。そんな大田さんに「人生の転換期」「モノづくりの先の新しい価値観」について伺った。
ターニングポイントは、東日本大震災が起きた29歳のころ
大田さんの人生の転機は、スタイリストとして第一線で活躍していた29歳のころだったという。それは2011年、東日本大震災が起こった年でもある。

「元々は、女性誌『ViVi』などでスタイリストをしていました。あの頃の『ViVi』は長谷川潤さんやマリエさんなどが活躍していた時期で、たくさんの洋服に囲まれながら、モデルの個性に合わせたスタイリングを考えたり、服そのものがもつエネルギーを存分に浴びていたのを記憶しています。とにかく寝る時間もないくらい、スタイリストとして忙しい日々を過ごしていましたが、一方で、プライベートでは一人旅にも出かけていました。全く文化の違うケニアや南米に行くと、それまで日本で抱えていた悩みがすごくちっぽけに感じ、『人の心は環境で作られている』ということを感じ始めるようになりました。
家のインテリアを整えたり、お香を焚いたり、そうすることで心が整えられることを知り、次第に空間のディレクションにも関心を高く持つようになりました」
徐々にアパレルブランドの内装ディレクションも手がけるようになり、ファッション以外のプロデュース業も展開するようになった。当時、あまり認知されていなかった「ヴィーガンフード」や「マクロビオティック」にも興味を持ち始め、「食」を発信したい想いも膨らんだという。
「それがちょうど29歳のころ。東日本大震災が起きた年で、今後の生き方を考える大きな転換期にもなったと思います。そんな時に知人から『所有している居抜きの物件でやってみない?』と声をかけてもらったことで、やりたいと思ったことが一気に動き出したんです。銀行にお金を借りに行き、食器から何から全部揃えて、内装も自分たちで作って、わずか5ヵ月で『LAPAZ(ラパス)』をオープンしました(※2014年には移転し、『ORGANIC TABLE BY LAPAZ』へリニューアル)。その間もスタイリストとして仕事をしていたので、今振り返ると……よく頑張ったな、と思います(笑)」